スザルルSS

□遅咲きの想い
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※ルル←スザ+ユフィ
(大幅加筆修正済み)









「言葉」といい、「言の葉」ともいう


干からびた心が、誰かの口にした言葉から涼しい緑陰(りょくいん)をもらうこともある


胸底の焚(た)き火に投じられた言葉に「なにくそ!」と闘志の炎が燃え立つこともある


幼い頃だけだがルルーシュは世間の恐怖や不安からも、いつも私を守ってくれた


こっそりアリエス宮を抜けだし、私とナナリーとルルーシュで森に遊びに行って、帰り道がわからなくなって迷子になったときも


「大丈夫だよ。ユフィ」


そう言われると、嵐のあとに巣穴からそっと顔を覗かせた小動物のように、小さな笑みが仄(ほの)めいて、続けて必ず涙が滲んだ


だから私はルルーシュを頼り、ルルーシュに甘えて育った


頼りの兄が私の前で泣くことは一度たりともなかった


こうして私の理想は構築されたのだ


兄妹の間に交わされる、濃密な、麗しい情愛


いつもは強く、自分をさりげなく守る兄が、たまに弱くなったとき、妹はなぐさめ役に転じる


小さな不満やささいな疑念は心の抽斗にしまい、観音様の心境で、兄を包んであげよう


結局ルルーシュは弱い箇所を微塵も感じさせなかったが、よくそう思った


弱みをみようと奮闘したが盲目の垣(かき)覗きのようなもので、どこをうろついても手かがりがない


呼吸ひとつごとにかすかに動く肩


つむった目蓋(まぶた)の端をいろどる長い睫毛(まつげ)


えもいわれぬ魅力的なラインを描いた鼻や顎


貴重な美しいもの


つかの間の甘い目眩(めまい)に私は揺れた


幸せ、それはけして触れられない風景画のよう――


終わりのないお伽話はないことを知ってはいたけれど、もう少し留まっていたかった


そうすれば……忌(い)まわしい明日が来ようが、優しい貴方が人質という責め苦を受けずに済んだのに




第一声はこんな優しい脅しから始まった


「スザクはルルーシュのことが好きですか?」


「どうしたのユフィ? あらかさまに」


政庁内の談話室は、不気味に長閑(のどか)で、優しく不穏


嵐の前の静けさというのではなく、嵐を隠した静けさとでもいうべきか


二人でミント入りの緑茶を飲んでると、ユーフェミアは興味津々といった状態で質問してきた


「最近ルルーシュがスザクのこと避けてるみたいだから…」


流れるだけの時間に身を委ね、愛想笑いも滞りなく振り撒き、欠伸(あくび)もせず憎まれ口も叩かず、明らかに厳然と微笑ましく


開け放した窓からは、口笛も鎮魂歌も水音もすべて平等に響かせる美貌の蒼穹が広がっていた


「それ、きっと僕達のせいだよ」


素早く思考の糸を巡らせたスザクは、慎重に言葉を選びながらひきつった微笑とともに答える


「僕達?」


何故、ルルーシュの機嫌を損ねた理由(わけ)に自分が含まれているのかがわからぬふりをし、ユーフェミアは首を傾げる


「ほら、ユフィが僕を騎士に選んだから」


スザクの的を得た指摘に、たちまち疑問は氷解するが、何だか不愉快な煮え切らない漠然なものが、至る所に潜んでいるようで堪(たま)らない


「そういえば、そうでしたね」


目の前にいる相手を、ユーフェミアは断罪の天使のような声で串刺しにした


無知と無関心と怠慢こそが、理解の芽を摘み、絶望と断絶を生む温床になる


傲慢だが、軽く胸が痛んだ


初めてスザクやルルーシュを可哀想、と感じた


ひそかに二人を観察している私も、浮かれた勘違いと痛い自覚とがともにある女だから、彼らを笑いつつも共感し、ときには近親憎悪を抱いてしまうのね


とって貼ったかのようなついでのような扱いに、スザクは苦笑せずにはいられない


「忘れないでよ……ユフィ」


まあ、シンジュクゲットーには捨てるゴミなしというか、どんな人にでも需要があって居場所がある、暗黒の楽園


やっと店じまいできたホストが、嘔吐の呻き声を漏らしながら、ふらつき気味に歩き、風俗店ばかりが入ったビル前に山積みにされたおしぼり入りの巨大な袋は、ぱっと見には死体入り


掃除されていない路上の吐瀉(としゃ)物を突(つつ)くカラスの群れの鳴き声は、雅(みやび)な歌にすら聞こえる


取り巻く闇も人の抱える闇も、密度が違う


一部の雑誌や物語で誇張され美化されているほど、ゲットーはいつでも銃撃戦があったり炎上していたり悲鳴と怒号に満ちていたり、悪党ばかりが跋扈(ばっこ)していたりするのではないのだが


「もしかしてルルーシュはその事で嫉妬してるのかしら?」


普段と変わらぬ甘やかな声でスザクに問いかけるユーフェミアは、とびきりの悪戯(いたずら)を思いついた子供のような顔で微笑んでいる


そのままの表情で畳(たた)み掛けられ、スザクは言葉に詰まる


都合よく美化したエピソードや、自分の見栄のために捻(ね)じまげた事実


ブリタニアを内から変える?


間違ったやり方じゃ世界は変わらない?


死も再生もすべて感傷的な昔話として如何ようにも捏造できる


もう……反吐が(へど)でそう


寒暖計のように上ったり下ったり


スザク……貴方、わかっているの?


肉体を有し社会生活を行っていく以上、多くの罪咎の上でしか、生を傍受することが出来ない仕組みになってるのよ


沈思(ちんし)するユーフェミアの思考を現実の地平に引き戻したのは、スザクが言った肯定の一言


「僕にはそうとしか思えないよ」


「じゃあ、早く誤解を解かなきゃ!」


認めちゃいなさいよ、スザク


誰かに免罪符もらって、厚顔無知で欲望だけ貪(むさぼ)ってるって


清純派アイドルでもないんだから過去を隠す意味はない


下手に過去を粉飾して暴かれる方がそうとう格好悪いわ


「待ってユフィ」


学園内にいるルルーシュの元へ会いに行こうと、張り切って準備を進めようとしたユーフェミアを慌てて止める


「しばらくこのままでいさせてよ」


正規の軍人だというのにある意味、ゲットーのテロリストや不法滞在さん達よりも怖く危険な香り


(ちょっと言い過ぎたかしら……)


ようやく冷静になったユーフェミアの頭の隅(すみ)を、小さな後悔の欠片が過(よぎ)った


ユーフェミアは指定したこの場所に来る前も、スザクに少なくはない怯えと警戒とを抱いていたが、それよりも、侮蔑(ぶべつ)に近い好奇心が勝っていた


「えっ? どうして……スザク?」


一瞬の躊躇(ちゅうちょ)に、ユーフェミアは酸欠の魚のように口を開閉させる


私が許可なくスザクの身体領域に侵そうとすれば笑顔で拒絶する


空が高くよく晴れた春の日に、どこかの小川の川面に白く反射する陽射しを思わせる澄んだ声で、スザクは滑らかに言葉を紡ぐ


「ルルーシュの怒った顔って可愛いんだ」


独占的所有権が認められているのはルルーシュだけ


分かたれた堅牢な聖域


けれどこの不夜城の夜を知った人は必ず、照らす光よりも光さえ吸い込む夜を見る


そこに光を照らすのは、禁じられた闇をも垣間見ることになる


敵対しない人には優しい無視をくれ、自分を脅かさない相手は穏やかに放っておいてくれる人


「まあ、スザクったら」


一瞬あっけらかんとした表情になったが、ユーフェミアはすぐに花のような笑顔を見せた


痛みを感じることでしか他者への愛も、恋も、情も確認できない生き地獄の人


かつてブリタニアが貪婪(どんらん)に蹂躙しつつ、卑屈に愛を乞うた異郷に分け入れば、待ち構えていたのは望んで生贄になって、生きたまま引き裂いてもらうことを切望するしか恋の表し方を知らない男


地上で罰を受け続け、償い続けさらに罪を重ね、荒廃の一途を辿る愚かな男に、ユーフェミアはただ苦笑した




夢は微睡む暇さえ与えてはくれず、時は優しいだけの痛みを日々この身に焼印を呉れる


空の碧を疑った幼い日々をそっと目蓋の裏に映しながら、進む足は留まる事を知らず、風の流れるままに明日へと向かってゆく


恋愛を醸成し、行く末を見つめ、二人を包み込む空間であると同時に、不安や苦悩や悲哀を映す鏡であり、また感情の受け皿でもある


隠すのではなく、伏せるだけ


嘘をつくのではなく、黙っているだけ


歪曲(わいきょく)するのではなく、少し脚色するだけ


すべてが季節はずれの春霞に包まれて霞(かす)んでいくのに、妙な部分だけが現実にしっかり結びついている


二人は煌(きら)びやかなビルの中にいて、同じ夢は見られなくても同じ場所で眠るのだと微笑めば、危険な照明は蕩ける陽射しにもなるのか


ルルーシュ


死神の牙を逃れた代わりに幸運の女神が要求した代償は大きい


けれど君がひとつの物語なら、まだいくらでも書き換えられる


小さな不幸が交響曲のように響き合い、やがて大きさと速度を増し、クレッシェンドの怒涛に達したのが、数ヶ月前のことだった――


いや、まがりなりにも日本人なのだから、序破急の「急」に達したというべきかな


やっと自分の気持ちに気づいたんだ


君を見てると胸が、淡い焔を点(とも)す蝋燭のように揺らめいて、心臓の鼓動がビートを刻む


つまり、僕は君が好きなんだ


この気持ちは嘘じゃない


なぜなら僕を優しく抱きしめようとしていた死の闇を、君の激しいまでの生気に満ちた叱咤と、獰猛な閃光が切り裂いてくれたから


光束(たば)ねた楽園のなかに帰った物語に鍵をかけて、記憶の中から忘れられないようにしたんだよ


「じゃあなんでユフィの騎士になったんだ」って、君は聞くのかもしれない


それはね……


君の真実(ほんとう)の気持ちを知りたくてちょっぴり意地悪しちゃった


恋愛中って自分の欲望と相手の欲望がシーソーのように揺れて、どちらに傾きすぎても塩梅(あんばい)が悪い


でも……あれくらいで動揺してしまうなんて


君って案外、心が脆いんだね


礼儀正しく君を嬲(なぶ)るのがたまらなく好きだ


どんなに深い夜が訪れようとも、月の欠片もない暗い夜空が広がろうとも、人工の光は煌々と輝き続けるという直截(ちょくせつ)的かつ叙情的な表現


でも安心して


世界で一番なのは君だけだよ


神が造った、弱さを抱く美しい人形


愛してるなんて言葉じゃ伝えきれないほど君を想ってる


涙で飾られた君の目を塞(ふさ)いで、誰より優しく呟いてあげる


僕の可愛い、可哀いルルーシュ









遅咲きの想い



(境界線も越えていくよ)






スザクもユフィちゃんもルルのことが大好きなんです(笑)

今日の日記でも書いた通り私はスザルル書き慣れてません

でも、好きなんです!

ギアスで1番のカプだと思ってる

ルルーシュに嫉妬させ隊No.1の座は誰にも渡しません(ユフィ談)



お題拝借、9円ラフォーレ・闇に溶けた黒猫様


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