スザルルSS

□恋愛フラグが立ちません
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※現パロ、ルル←スザ+独自設定シンステ

シン以外の三人は大学生です

スザクとルルーシュの関係は友達以上恋人未満

(シンとステラはすでに恋人同士)






鼓膜を叩いた声は、鈴を振るように澄んでいた


「スザク」


「何? ステラ」


生欠伸(あくび)をしながら答えたのは、座布団に座ってテレビを見ていた枢木スザクである


ふわりとした金髪を、片手でかきあげるステラの声は穏やかだったが、その内容は牢固として揺(ゆる)ぎない


「七日って何の日だったか知ってる?」


「うーん……七夕?」


少し考えこんだ後、目線をテレビの画面に戻す


「私の誕生日、よ」


「あっ、そう」


話を適当に流されたステラは、怒気のこもった瞳でスザク睨(ね)めつける


「アンタねぇ……」


不機嫌げなオーラが湯気のように背中から立ち昇(のぼ)っていた


「いつも世話してやってんだから、礼のひとつぐらい言いなさい!」


「ぶげ!?」


はなはだ非音楽的な悲鳴があがった


と、その時玄関からチャイムが鳴り響く


「ステラ、いる?……ってアンタは!?」


変なものでも呑み込んだように表情を強張らせたシンを見上げ、軽薄な声をあげたのは地面にひっくり返っていた男だった


「ども〜」


脳天気に笑い、へらへら手を振ってみせている


「お久しぶり、シンくーん」


「なっ!? なんでまたアンタがここにいるんだよ!」


こののほほんとした生温い声に、シンは聞き覚えがあった


「それはね……またシン君の力を借りようと思って、てへっ!」


力の抜けたようなスザクの顔に、シンは疲れたような吐息を漏らす


ステラは、お気楽に頭を掻いている男の襟首を無造作に掴んだ


「そういうことよ。悪いけど付き合ってやってくれない?」


迷い込んできた野良猫でも捕まえるように乱暴に摘(つま)み上げる


「ただし……」


満腔(まんこう)の悪意とごく微量の親しみをこめた笑みを美貌に刻む


「報酬はたぁぁっぷり頂くわよ?」




「ほはへれはふは、ほへへはひ、へへーほふほほほ」


「まずは口の中のものを片付けなさい。何言ってるかわかんないわ」


卵を丸呑みにする大蛇みたいな顔で何事か唸(うな)っているスザクを、ステラは無慈悲な視線で斬り捨てた


テーブルには、ついさきほどまで宅配数種類のピザが所狭(とこせま)しと並んでいたはずなのだが、今やそれらは悪い冗談だったかのようにきれいさっぱり消えてしまっている


「すっかり忘れていたけど、明日は僕の誕生日だった。ルルーシュからの愛を受け取る準備を怠(おこた)っていたよ」


頬張った料理を呑み下すと、スザクはなんともはがゆげな表情になった


失われてしまった貴重な時間に思いを馳せると、眉根が寄ってしまうのをどうしても抑えられない


「ねえ、どうしよう! どうすればいいと思うステラ?」


「どうすればって……普段と同じように接すればいいんじゃないの?」


普段の発言こそ理路整然と筋を立てており、確固たる説得力を備えているステラだが、しかし今ばかりは、その聡明そうな瞳が困惑を湛えて瞬(またた)いていた


「シンくぅぅーん!」


「お、俺に聞かないで下さいよ!」


言葉に詰(つ)まり、困ったように頭を掻くシンにスザクはがっくりと項垂(うなだ)れる


「なんだか僕の人生が赤信号に点滅してる。誰かこのトラブルまみれの人生何とかしてよぉ」


消え入りそうな声で呟くと、スザクはえぐえぐとべそをかいた


黙って座っていれば、それなりに整った顔は、いまや涙と鼻水で地崩れ起こしていた


「それはこっちのセリフよ」


ステラは腰に手を置くと、さも嘆かわしげに首を振る


「スザクといるせいで何かとやっかいごとに巻き込まれるし」


物静かな声がスザクの耳朶(じだ)を叩く


「連呼するくらい好きなら言っちゃえばいいのよ。ルルーシュは僕のものだって」


「それだ!」


その言葉に、スザクが顔を輝かせた


まるで、闇夜に光明でも見出だしたように身を乗り出す


「深夜、ルルーシュが変質者に襲われる。僕がその変質者からルルーシュを助けて、愛の告白をする。ルルーシュは僕に惚れる。めでたく恋人同士に。これでシナリオはバッチリ! 名づけて……どきどきイメージアップ作戦!!」


舌に油でも塗っているようにぺらぺらとまくしたてるスザクは、さも大仰(おおぎょう)に肩をすくめてみせると、おどけたようにウインクした


「発想はともかく、問題があるわよ。変質者は誰がやるの?」


「それは……」


(なんで俺の方を見るんだよ)


横目でシンを凝視するスザクにたじろぐ


「決定ね」


ステラは口元を綻(ほころ)ばせた


「はあぁぁぁぁっ!!?」


狼狽したシンの甲高い声に、スザクは猫撫で声で擦り寄ると上目づかいで懇願し始めた


「頼むよ、シン君。僕とルルーシュの未来のために」


黒い髪の下で、燃え盛る炎にも似た赤色の瞳が細まった


手負いの虎のように剣呑(けんのん)な光が、視線にこもる


「ふざけないでください! 明日は休みでステラと一緒に過ごす予定が……」


「別に構わないけど」


「スッ、ステラ?!」


怒って抗議したシンとは対照的に、ステラの表情は毫(ごう)も変わらなかった


「ステラも賛成してくれてるし全員一致ってことでいいよね。それじゃあ、早速準備に取り掛からないと!」


謙譲の美徳とはおよそ縁のない口調でスザクはこう嘯(うそぶ)いてみせる


「待ってて、ルルーシュ! 僕がいないと寂しくて倒れるくらい君をメロメロにしてみせるから」


「けっこう面白くなってきたじゃない」


ある種の肉食獣を思わせるステラの笑顔に、シンが不吉な予感を感じ始めていた




時間は瞬く間に過ぎていき、すでに夜になっていた


彼としては、なんとか理由をつけて提案を却下しようとしたのだろう


「ホ、ホントにやるのかよ?」


逡巡しているシンに、襟(えり)を正し、瞳に生気を宿したスザクは世界の支配者みたいな顔で暴言を言い放つ


「当たり前じゃない! ちょっと声かけて脅かすだけでいいから」


わずかながら、底意地の悪そうな笑みを瞳に浮かべる


爽やかな顔で犯罪まがいの行為をしようとしているスザクに、シンは嫌そうに顔をしかめる


「それって恐喝まがいの行為じゃないか!」


「いいからいいから。それじゃあ指示通り頼んだよ」


にんまりと微笑むスザクに、シンは反駁(はんばく)を試みようと唇を動かしたが、結局、効果的な反撃を見出だせず、努力は無為に終わった


(仕方ない。襲うフリだけするか……ルルーシュさん、許してくれ)


ばれないように帽子を目深(まぶか)にかぶり直したシンは、サングラス越しに正面から歩いてくるルルーシュを見据え、話しかけるため足を進めた




「どういうこと!? 僕の渾身の作戦が失敗したって」


「私に聞かれてもねぇ……」


翌日、校門前で慌てふためき途方にくれるスザクに、ステラは他人事のように応じる


「タイミングを見計らってずっと待機してたのに! 気合い入れてたのに!」


「スザク……シンだって暇じゃないのよ」


周囲の迷惑も顧(かえり)みず、無遠慮に喚(わめ)くスザクをステラは柔らかく窘(たしな)める


「とりあえずシン君に会わなきゃ! 会って、これがどういうことか説明させて――」


「……何を説明させるっていうんだ、スザク?」


気色ばむ青年に囁いた声は、玲瓏(れいろう)と澄んでおり、そのタイミングはまるで慎重に計算されていたかのようだった


「どうしたんだ、そんなに血相変えて……」


「ル、ルルーシュ!?」


いったい、いつの間に!?


ぎょっと振り返ったスザクの前にあったのは、透けるように白い顔だった


男たちが思わず見惚(みと)れてしまったほどに美しい顔


造化の神が技巧の粋(すい)を凝らしたような麗貌(れいぼう)が蠱惑(こわく)的な笑みを湛(たた)えている


しかしその微笑を見た刹那、一同の脳裏を、芳(かぐわ)しい香気(こうき)で獲物を誘う食虫花の映像(ビジョン)が過(よ)ぎったのはなぜだろう?


「ルルーシュ、いったいいつからそこに……」


「確か、“どういうこと”あたりからだな」


長い睫毛を伏せて微笑むと、気安い歩調でスザクに近づいてきた


「嬉しいよスザク。お前が俺の身を心配して守ってくれるなんて」


「えっ?」


愉快げな声がスザクの呻きに答えた


美貌(びぼう)に湛えた微笑は絶やさぬまま、ルルーシュは丁寧な解説を付け足した


「話は全てシンという男から聞いた。俺が事情聴取したら素直に話に応じてくれたよ。お前に頼まれて泣く泣くやった行為だと」


慄然(りつぜん)と唇を震わせ、落胆するスザク


だが、ルルーシュの表情は小揺(こゆ)るぎもしない


「まあ確かに、実にお前らしいわかりやすい立案だ。極めて陳腐な奇襲だがな」


天使を髣髴(ほうふつ)とさせる白い麗貌が傍らの青年に向けられ、その唇から小さなため息がこぼれた


「だが、好意は伝わった。スザク……お前の条件を俺は受け入れてもいい」


「じゃあ――」


ほっと表情を弛緩(しかん)させたスザクの顔を優しく見やると、ルルーシュは深く頷(うなず)いた


「……なんて、言うと思ったかあぁぁぁぁッ!!」


あたかも太陽が地上に墜ちたか如(ごと)き閃光と、大気そのものが炸裂したような衝撃が世界を襲ったのはその直後だ


「何がどきどきイメージアップ作戦だッ! 自作自演のシナリオで俺を襲って助けてどうする!? 少しは頭を使え! この馬鹿が!!」


沸騰中のドライアイスのように鋭いルルーシュの声は、スザクを一蹴した


毒蛇(どくじゃ)のように伸びた腕がスザクの喉輪(のどわ)に絡みついている


「ご、誤解だよ! ルルーシュッ!」


うわずった声をスザクはかろうじて押し出した


もっと冷静に話さねば駄目だ――


そんな思考が脳裏をかすめたが、狼狽と驚愕に頭が麻痺してしまったようで、焦れば焦るほど、ろくな言葉が出てこない


「僕は……そんなつもりで君を助けようとしたわけじゃないんだ!! ただ、ルルーシュに、いいとこ……みせたくて……」


豆鉄砲を食らった鳩のように碧眼が忙(せわ)しなく動いている


スザクの挙動不審な態度に、ルルーシュの頭に音をあげてアドレナリンが流れ込んだ


「なら……もっとマシな方法考えろぉぉっ!!」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」


すべてを排他するような夏の太陽が容赦なく照りつける中、スザクは苦鳴を吐き出した


網を張って鳥を捕るように、罠(わな)を仕掛けて我らを捕らう者あり


(さすがに私も面倒見きれないわ)


罠にはめようとして、その罠に、逆にはめられたのはスザクの方であった






恋愛フラグが立ちません



(ルルーシュに対する新たな平和条約を結ぶため、必要な愛の三原則を唱えます)






かなり遅れたけど誕生日おめでとう

完全ギャグでお送りしました

これでも真面目に祝ってます

ルルーシュ馬鹿なアホっぽさ全開のスザクが書きたかったんだ!




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