君のための嘘
□第十四話
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「夏休み明けは元気に登校するよーに。んじゃ、宿題忘れんなよー。じゃあな、お前ら」
面倒くさがりの担任が出ていくと、みんなも帰り支度を始めて教室を出ていく。
みんなの表情は何処と無く明るく見える。
なぜなら、今日から夏休みだからだ。
「 なまえーっち!今日部活ないッスから、一緒に帰ろ! 」
「ごめん、ヒロたんと帰るから無理」
「ええっ!?じゃ、じゃあ…俺も一緒に帰りたいッス!ヒロタもいていいッスから!」
なんて図々しい男だ、黄瀬くん。
「…ハァ、仕方ないなー」
私がため息混じりに呟くと、黄瀬くんの表情がパァァと明るくなる。
もし彼に犬の耳と尻尾があったなら、今は千切れるほど尻尾を振っているのだろう。
「でもさ、夏休み終わり頃に全中あるよね?自主練とかいいの?」
「あー…今日くらいは休めって赤司っちが言ってたんス」
「そっか」
青峰くん、今頃本宮サンと帰ってるのかな…。
「それにしても、まだ表情戻んないッスね…。ちょっとは笑って見えるんスけど…」
「これでも週1で通院して訓練してるんだけどね…。通院しててこれだもん、完璧に笑えるのはまだまだ先かな…」
きっと、何よりも気持ちの問題なんだろうけど。
青峰くんのことで悩まなければ、すぐに表情は戻るのだろうか。
「がんばってるんスから、きっとすぐに笑えるようになるッスよ!」
明るく笑う黄瀬くんが眩しい。
笑えなくなってから、人の笑顔を見るのがツラくなった。
私は、笑えないけど他の表情はできる。
泣くことはできるし、驚くこともできる。
ただ、笑えない。
「黄瀬くん」
「ん?なんスか?」
「……合宿、大丈夫かな」
合宿……つまり、泊まりがけで強化練習を行う。
泊まりがけと言うことは、青峰くんと本宮サンと毎日顔を合わせることになる。
「…ツラかったら、俺のそばに居ればいいッス。もっと俺を頼って欲しいんスよ」
黄瀬くんの真剣な顔に胸が熱くなる。
頼ってもいいのかな?
迷惑じゃないのかな?
「…俺たち、友達じゃないスか。もっと、色々話したいッス。 なまえっちのこと知りたいッス 」
そう言う黄瀬くんは、なぜかツラそうに顔を歪めていて、私と目を合わせなかった。
「…じゃあ、もっと話そっか。もっと頼るから、お互いのこと知っていこう?友達だからね」
黄瀬くんは少し目を見開いて、そして私と目を合わせると複雑な顔で笑った。