君のための嘘
□第九話
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例えば、“人事を尽くして天命を待つ”とか、“俺に勝てるのは俺だけだ”とか、長ったらしいけど言葉には簡単にできる。
でも、“好き”って言葉は、その想いが強ければ強いほど言葉にできなくて、言えないくせに独占欲と嫉妬だけは強くて。
彼女でもない私は、私の想い人である彼にベタベタくっつく本宮サンには何も言えない。
きっと、真ちゃんに相談したら、
「さっさと気持ちを伝えればいい話なのだよ」
とか言ってきそうだなぁ。
恋愛は、真ちゃんの言う人事は尽くしきれないし、天命なんて待ってられない。
何も行動に示せない自分が嫌で、この世界に来るまでこんな気持ち知らなかった。
ほら、今だってあの2人はベンチに並んで座っている。
それを視界に入れてしまったら、私の心臓は黒いモヤモヤした感情と嫉妬でいっぱいになる。
壊れてしまったのか、というほど嫌な音が心臓から聞こえて、なぜか追い込まれたような気持ちになるのが、とてつもなく不快だ。
「 なまえっち! 」
むぎゅう、と後ろから抱き着いてきたワンコ否、黄瀬くん。
「明日の練習試合、俺のこと応援してくださいね!俺、 なまえっちのためにシュートたくさん決めるッスから! 」
そう。
本宮サンがマネージャーになってから早くも1週間が過ぎ、とうとう明日は練習試合だ。
「うん、応援してるよ」
「ほんとッスか!?」
「もちろん。黒子くんや真ちゃんもね」
「ええ!?俺だけじゃないんスかぁ!?」
大袈裟に残念がる黄瀬くんが本物の犬に見えて、私は項垂れて少し距離の近くなった黄瀬くんの頭を撫でた。
「がんばってね」
「っ!」
金髪のサラサラ髪を撫でると、黄瀬くんはバッと顔を上げて、その顔を真っ赤にさせた。
「が、かんばるッス!」
どもりながらもキラキラの笑顔で頷き、また私に抱き着いてきた。
どうして私はこうも男に抱き着かれるんだ…。
どうせなら桃ちゃんみたいな豊満な胸の女の子がいい。
だがしかし、現実ではデカイ紫の男やら、金髪のワンコに抱き着かれているのだ。
こう毎日抱き着かれていると、これが当たり前になって照れたりなんかしなくなるのね。
初めのうちはムッくんにも黄瀬くんにも全力で拒絶をしていたが、それでも構ってくる2人にはもう呆れて反抗する気すらなくなるよね。
「黄瀬ちーん。ずるいしー。俺も あだなちんにギューしたい 」
黄瀬くんだけでも暑苦しくて重いのに、ムッくんまで私にのし掛かってきた。
こ、これは死ぬ…!
「ちょ、ちょっと……重いから離れよ…?」
「嫌ッス!」
「 あだなちん、柔らかいしいい匂いするー 」
こんの…変態ども!