欲張り少女は微笑んだ
□本当は気づいてますよね?
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好きな人ができた。
とっても優しくて、バスケをしているときはかっこよくて。
ただ、彼はとても影が薄い。
悪口とかじゃなくて、本当に。
黒子くん。
彼は、“影”だ。
「タイガー」
「大我だっつーの」
「そんなことはどうでもいいの。それより、今日も部活見に行ってもいい?」
「あ?あー…いいんじゃね?」
廊下にいた図体のデカイ幼なじみのタイガー異、火神大我。
コイツは黒子くんと同じクラスな上に、同じバスケ部で更には相棒だと言う。
何そのおいしいポジション。
羨ましすぎる!
そんなこと思っているうちにタイガーは教室へ戻っていってしまった。
冷たい奴だな。
彼、黒子くんを好きになったキッカケは本当に些細なこと。
白い肌に不思議な瞳、タイガーにたまに見せるフワリと笑う笑顔がたまらなく可愛い。
たまたまタイガーに用があってタイガーのクラスに来た私は、その笑顔を見た瞬間から彼に釘付けだ。
1回でいいの。
少しでもいいから話してみたい。
そう思って毎日の如くバスケ部の練習を見学に行っているけど、練習練習練習で話しかける暇もなければ、私には話しかける勇気すらない。
私のチキン野郎!
焼かれて喰われてしまえばいいのに、私!
「あの、」
あ、やっぱり焼かれるのは嫌!
「すいません」
でもでも!黒子くんに食べられるなら焼かれてもいいかも…
「…聞こえてますか?」
なんてこと考えてんのよ私!
マゾか!マゾヒズムか!
「あの!」
「へ!?は、はい!」
どうやら考え事をしている私に、さっきから誰かが話しかけていたらしい。
廊下のど真ん中で考え事して無視しちゃうとか、私…最低ではないですか…。
すいません、と思いながら呼ばれた方を振り返れば、私は硬直した。
なぜならば、私が絶賛片想いなうの黒子くんが目の前にいたからだ。
「ハンカチ、落としましたよ」
「えっ、あ…すいません!ありがとうございます!」
ピンクのハンカチを受け取る際に手が触れ合ってしまい、私は大袈裟なほど反応してしまう。
「うひゃあ!すいません!汚い手で触ってすみません!でも、トイレの後はちゃんと洗ってるんで大丈夫ですから!」
テンパりすぎて意味のわからない言い訳をしながら身振り手振り黒子くんに話しかける。
そんな私に彼はフッと優しげに笑うから、もう心臓が爆発五秒前です。
「汚いなんて思ってませんよ。…名前さん、ですよね?火神くんの幼なじみの」
「は、はひ!その名前です!」
「火神くんからよく話を聞いてますよ。面白い方だって」
タイガー!ナイス!
まさか名前で呼んでもらえるなんて、名前感激!
「わ、私も!く、黒子くんのこと…タイガーからよく聞いてるよ。部活も試合も…見に行ってるし…」
「はい、知ってますよ。いつもあなたを見てますから」
「……え?」
「あ、もうチャイムが鳴りますね。僕は教室に戻ります」
そう言って私に背を向ける黒子くんを、呆然と見つめる。
“知ってますよ。いつもあなたを見てますから”
何度もリピート再生される黒子くんの台詞。
え。え…えええええええ!?
ゆ、夢かな!?
夢でしょう、これは!
自分のほっぺたをギューギュー引っ張っていると、去ったと思っていた彼は振り向いてその形のいい唇から言葉を紡いだ。
「よかったら連絡先、教えてもらえませんか?」
―――本当は気づいてますよね?
私の気持ちに。
(い、いいとも!)
(これでデートにも誘えますね)
(デート!?)
(嫌ですか?)
(嫌じゃないです、はい!)
おわり