君のための嘘
□第二十一話
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「うへー暇だー」
合宿から帰ってきて3日。
午前中は部活、午後は家でゴロゴロの繰り返し。
「暇なら外走ってこい!」
「やだよ、めんどくさい」
「めんどくさくなくて暇を解消できるようなものは無い!」
ヒロたんはソファーで寝転がる私の腰をドカッと蹴って床に落とす。
「いったぁー!痛い!腰がっ、腰がァァァァァ!!!」
「大袈裟なんだよ!青峰とデートでも行ってこいよ!」
デート?
デート??
デート???
「何それ、おいしいの?」
「死ね」
強引に家から追い出され、街を徘徊なう。
なんだって私が家を出なきゃならんのだ。
仮にもあそこは私の家だ。
「ハァ…」
深ーく吐いた私の溜め息は、奇声にかき消される。
甲高い、女特有の叫び声。
何事だ、と騒ぎの元手を探すと、どうやら雑誌の撮影をしてるらしい。
そこでミーハーな女子たちが騒いでいるのだ。
はっ、くだらないな!
私にはイケメンで優しい……ん?優しいのか、あれは……まぁ、優しい彼氏がいるから芸能人だとしても、他の男なんて興味ないけどね!
とは言いつつミーハーな私は、女子に紛れて撮影を覗く。
さて、誰が撮影してるんだろう。
ヒョイッと輪の中心にいた彼を覗きこんだ時の私の顔は、まさに目が点。
「あ。なまえっち」
彼の口がそう呟いた瞬間、ファンの女たちはザワザワと騒ぎ出す。
黄瀬くんの視線を辿った彼女たちは、
私のことを睨みつけるように見る。
私は頬が引きつるのを感じながら、助けを求めるように黄瀬くんを見つめる。
黄瀬くんはハッとして、私へと手を伸ばす。
「手!捕まって!」
黄瀬くんが近づいたことでファンは再びキャーキャー騒ぎ出し、私は目を細めながら黄瀬くんの手を掴む。
そのまま引っ張られ、少し離れたところに停めてあった、所謂ロケバスのような車に乗せられる。
「ごめん、なまえっち!つい名前呼んじゃって…」
「いや、大丈夫…。それより、撮影のほうは?大丈夫なの?」
「いや、それが…」
黄瀬くんが気まずそうに視線を逸らしたとき、車のドアが乱暴に開かれた。
「黄瀬ぇ!これどうゆうことだ!」
「え!?青峰くん!?」
黄瀬くんと似たような格好をした青峰くんが青筋を立てながら黄瀬くんに詰め寄る。
「あ?なんでなまえが…」
「青峰くんこそ…」
「黄瀬が今すぐ来いっつーから来てやったら、いきなり服脱がされて着替えさせられて、モデル代理しろってよ。ふざけんなよ」
出た、モデル代理。
ご愁傷さま、青峰くん。
「誰がモデルなんかやるかよ!俺は帰る!」
「いいんスかー?帰って」
「は?」
「青峰っちがモデル代理やらないなら、またなまえっちに頼むことになりそうッスけど」
「え!?やだやだやだ!またあんな恥ずかしいこと…」
「俺となまえっちが手繋いで写真撮ったりしてても、彼氏の青峰っちは何とも思わないんスねー」
ニヤニヤと、挑発するように青峰くんを見る黄瀬くん。
正直、様になっててイケメンでっす。
「っあー!くそ!やりゃあいいんだろ!?」
青峰くんが折れるなんて…。
やるな、黄瀬くん。
「おい、なまえ。頼まれたとしても、もう二度とモデル代理なんてするなよ」
わかったな、とすごい剣幕で言われ、私は頷く他なかった。