君のための嘘
□第九話
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そんな俺様発言をした青峰くんに言い返す気力なんて、今の私になくて。
ただボーッと青峰くんを見つめた。
「明日の練習試合、いいもん見せてやるよ。お前が見惚れるくらいのプレーしてやる」
またいつもの妖しい笑みを浮かべて私を抱き締めた。
視界の端に映る本宮サンは、私のことを鋭く睨み付けている。
その顔は怖いけれど、今の私には優越感が勝る。
だが、その気持ちも長くは保たなかった。
視界に入ったもう1人。
―――…黄瀬くん
とても切なそうに私たちを見て、泣きそうに顔を歪めた。
そのとき、私は漫画で見た桐皇VS海常の試合で見せたあの顔を思い出した。
なぜか、涙が出てきた。
「………青峰くん。放して」
抱き締められたままだった私は、青峰くんの胸板をぐっと押し返す。
「っ、突然あんなことされて、頭ン中、整理できない…」
ファーストキスだったのに。
その言葉をぐっと飲み込み、顔を上げる。
「これからは……ちゃんと青峰くんの方、向いていくように努力するから」
もう俯かないで、青峰くんを真っ直ぐ見据える。
嬉しそうに笑った青峰くんに、頭をグシャグシャにされ、それでも脳裏に映し出されるのは黄瀬くんのあの表情だ。
最近、気を抜いた黄瀬くんはいつもあんな顔をしている。
どうして、そんなに苦しそうなの?