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□勝利依存症
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いつも通り、誠凛は厳しい練習を
していた。
誰もこれから起こることは予想さえ
出来なかった……








練習もメンバーもいつも通り。
何一つ変わらない。
だが、普段けして居ない人物が
体育館の観客席にいた。
選手から見えない死角に。
その人物は練習している中で誰かを
探しているようだった。
彼の目が目的の人を捉えた。
「…テツヤ」
そう、彼は元帝光バスケット部
キャプテン、キセキの世代の一人
赤司征十郎だった。






赤司は黒子を見つけてからも、
誠凛の練習を見ていた。
そして絶望する。
「どうしてこんな弱いチームに
入ったんだ…やっぱり駄目だな」

  テツヤの隣は僕だ。
 他の奴等はただの邪魔でしかない。

黒子の得意な技、
ミスディレクション。
僕も少しなら使える。
黒子にはかなわないが、
体育館のフロアに入れるぐらいは
使える。
観客席を後にしてフロアに向かう。

体育館の入口の前に立っても誰も
気付く気配はない。
黒子さえも練習に集中していて気付かない。
誠凛の人達と楽しそうにしている。
僕が知らない人間と話して、
笑っているテツヤなんか
見たくなかった。
一刻も早く、止めさせたかった。





「誠凛の皆さん、こんにちは」
一瞬で空気が変わる。
一斉に赤司に集まる視線。
そして黒子の悲しそうな顔。

「……赤司…君…っ!」
どうして此処に、と黒子。
「もちろん、テツヤに会いにだよ」
赤司が笑う、それと同時に黒子の顔が引きつる。
周りではやっとキセキの世代の
赤司征十郎であることを理解した。
黒子はそれでも声を絞り出し会話を
続けた。
「…あ、赤司君が行った洛山高校は京都でしたよね…?」
「うん、そうたけど?」
当たり前のよう応える。



「テツヤは今に満足してるの?」


赤司は問うた。
また、黒子の顔が歪む。
「どういう…意味です…か」
「言葉通りだよ。テツヤは今の環境で今のバスケで幸せなのか、満たされているのかを僕は聞いてるんだよ」
殺気。

しばらくの沈黙。

「…僕は…今に…は満足…して、
 ます…」
黒子は目を泳がせながら答える。
赤司は笑顔で提案した。


「じゃあゲームでもしようか」





********→



「ゲームのルールは簡単。
僕とテツヤが組んで、他の方々で僕達に勝てばいい。」
誠凛の皆さんよろしくお願いしますね、と赤司は笑う。
もちろん、反対の意見もでる。
どうして余所から来た奴に勝手に決められなきゃいけないのかと。
だが、赤司は全て黙らせた。眼力とで。


「それでは始めましょう」



結果から言うと、赤司と黒子のチームが圧勝。
誠凛チームは1点も取れなかった。
「ほらね、テツヤが此処にいる必要性が無いんだよ。」
黒子に語りかける。
黒子は両手の平を見て動かない。微かに震えていた。
「どうしたの、テツヤ。久々の勝利は嬉しかった?満たされた?」
大丈夫それはテツヤが悪いんじゃない、と赤司は黒子の肩に手を置く。
「…です」
小さく聞こえた黒子の声。
「もう一度言ってごらん」
赤司の優しい声。
「勝つことってこんなに…素晴らしい事なんですね…」
歓喜で震えが大きくなる。
そう、黒子はこう見えてもキセキの世代の一人。
負け続ければ勝利に飢える。負けすぎて黒子の心は壊れかけていた。
そこに昔、光であった赤司が来て吃驚したが喜びの方が大きかった。



──────ああ、
      本気でバスケが出来る。



「テツヤ、洛山においで。
また一緒にバスケをしよう」
手を差し出す。
その手に黒子は応えた。





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