& ターレス
□A SUDDEN LOVE
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その翌日ターレスがバイトに向かうために帰宅ラッシュ時の駅を通った時、皆の注目を浴びてる二人組がそこにいた。
何気なく見たターレスも、思わず足を止めてしまう。
距離があるため声は聞こえなかったが、手振りを交えて会話しているのは――あの男。
目立つ金髪…隙のない黒いスーツ……そして共にいるスーツ姿の男に向ける翡翠の瞳――
ターレスは何故か身動き出来なかった。
パートナーだと感じた。
直感だった。
屈託ない笑顔を、己の好む少し見上げる視線を向け、書類の束をリズミカルに弄んでいる――
自分には向けられないあの表情に、ターレスは無意識に唇を噛む。
そして気付く……
(――俺は、惚れて…るのか?あの客に……)
全身を熱が駆け巡るのが分かった――
打ち消しようのないあからさまな自身の反応に、ターレスは自嘲する。
(なんだコレ……男相手に本気かよ……)
くしゃりと頭をかき、急いで足をバイト先の店に向けた。
その後、週末が来ても件の男は現われなくなった。
一週目は、まぁそんな時もあるだろうと思うだけだった。
二週目には、心配になった。
三週目には…不安に苛まれた……
そして四週目。閉店時間まで働いたが、来ることはなかった―――
ターレスの胸にぽっかりと風がすぎる。
(もう会えないのかもしれない…)
名前も、職場も……自分は何も知らないのだと気付く。知ってるのはあの容姿と低い声だけ――
この広い世界で探しようもない、思い募るたった一人の男。
ターレスは自分の腑甲斐なさに拳を握り締めた。
(何故もっと早く……)
自宅に着いてからも、やり場のない感情に悶々としてしまう。食事をする気にもなれなかった……
ボーッとする日が続いた。
大学でも、友人に心配される程講義を聞いてないらしい。
バイトに出勤しても探すように視線を泳がし…つまらないミスをしてしまう――
そんな女々しい自分に余計に腹が立ち、客への対応が悪くなったと店長に怒られた。
(――最悪だ。)
ターレスは休憩時間に座り込み、思わず頭を抱えた。
こんなのは自分ではない。
(今までどんな女と付き合っても、こんなに胸を占領する程思ったことはない…)
恋愛の主導権は自身が握り、翻弄させるのは自分だったはずだ――とターレスはため息する。
「…名前……知りたかったなぁ……」
ポツリと思わず出た言葉に自嘲する。ターレスは立ち上がり、ぱん!っと両頬を目一杯叩いた。
(待とう!)
――そう決めた。
待つなんてターレスらしくない発想だったが、それが彼の正直な感情だった。
決心した分、幾らか晴れやかな気分で休憩を終え店内に戻る。
――そして真っ先に目に入った。
逆立った特徴的な金色の髪。隙の無い黒いスーツを纏うガッシリとした後ろ姿――
ターレスがこれでもかと目を見開き…息を飲む……
とうとう幻覚まで見てしまったかと、自身に都合良く現れた男の姿を目を擦り確認してしまう。
そして…フラッと足が進んだ――
「――お久しぶりです…」
「あぁ。ターレスか。しばらく国を離れていてな…」
どこか茫然とした言い方のターレスに、細めた目元で見上げながら男が答えた。
それを聞いてターレスは話を続けたかったのだが、他のテーブルに呼ばれてしまった。そちらに振り向き伺う旨を伝えた後、意を決して目の前の男に声をかけた―――
「あの、この後会って頂けませんか?」
「…この後?仕事の後か?」
「――あ、確かに…終わるまで二時間近くあるんで…ちょっと時間、掛かるかもしれないですが…」
言ってからムチャクチャなことを頼んでしまったと、赤面し慌てるターレス。
その顔を見た男は喉を鳴らして口角を持ち上げた。
「ククク……いいさ。のんびり待っててやるから頑張って来い。」
表情を綻ばせたターレスは会釈を忘れずに接客に戻った。
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