小説
□はじまり
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ターレスは当時まだ13歳の子供ながら、自分をよく理解していた。
闘争本能・破壊衝動……野蛮な民族らしい冷徹な性格・感情……
どれだけ敵を倒し、壊し、殺しても満たされない自身の…餓えた獣のような心の渇き――
それでは、と試しに同族を手にかけてみた。遠征先の全ての生命体を破壊してみた。
自分の好きなように暴れてみたならどうだ、と実行した。
結果は全て同じ。
心は渇く一方だ……
(他のサイヤ人は違うのだろうか?)
そんな風に始めは興味を持って他人を見ていたのだが、知れば知るほど違和感を感じた。
下級戦士の分際で―――と罵られ。
子供のくせに―――と脅され。
そんな目で誘ってきたのはお前だ―――と強姦まがいなことをされ。
(あいつらの本能は低俗なんだ…)
獣じみた狂気をまるで感じない。分かったのは、性能の低そうな粗野な支配欲―――
下らない…。
そして目の前にいる、頬の傷や肌の色の違いだけの同タイプの下級戦士も、その目に狂気は感じられなかった。
(誰も理解なんか出来ないんだろう…この、激しすぎる狂った――)
「おいクソガキ!聞いてんのか?着いてこいっつってんだろ!?」
ギラギラとしたオーラを纏って睨んだまま思案に耽っていたターレスに、バーダックは語尾を強めて顎で示してみせた。
溜め息をついて後に続くターレスは、やれやれといった表情のバーダックにまたもやムッとした。
「俺はシャワールームに行ってくっから、てめぇは飯でも食って待ってろ。終わったらチームメンバーと明日の遠征についての話し合いだ。」
バックレるなよ!と指差しながら念を押されて、ターレスは思わずグッとつまってしまう。
しかめっ面で小さく舌打ちしたのが聞えると、バーダックはクッと喉の奥で笑いながら水音に消えていった。
さっぱりして気分良くトレーニング施設内の食堂に着けば、自分と同じはねた頭を早速に見付けてニヤリと口角を上げた。
(ちゃんと居やがったな。)
程々に食べ終えていたターレスを背後から呼び掛け再び促すと、他のメンバーと合流するために人の多い施設を後にした。
――やがてバーダックの自宅に皆が集まれば、作戦会議にもならないいつもの飲み会が始まる。
「ホンっトにバーダックそっくりだ!ここまで同じ顔は久しぶりに見たわ〜」
面倒臭い説明など一切無く「新入りだ」とだけ言ってさっさと酒盛り始めたリーダーを、特段気にすることなくそれぞれがいつもの席に座り好き勝手に喋り始める。バーダックへの信頼なのか呆れなのかは分からないが、この無関心さがターレスには居心地悪いモノに感じていた。
そうこうする内にグイグイと杯を重ねていた女戦士のセリパが、おもむろに至近距離までターレスに近づきアハハと声を上げて笑いだしたのだった。
どうやら上機嫌になってきたらしく、絶えない笑顔でターレスをバシバシ叩きまくって同意を求めている。不快な表情で睨まれているのも全く関係ないようだ。むしろセリパは、「そんなとこも昔のバーダックを思い出す!」と更に楽しそうに大声で笑った。
「俺はもっと可愛げのあるガキだったぞ?なぁ、トーマ!」
「そうか〜?いつも暴れてばかりの傍若無人なガキだったろ。怪我しまくってたからメディカルマシーン使い過ぎだって怒られて、出入り禁止にされた時は可愛いかったけどな。」
「あれな〜!あれは笑えたな〜」
「覚えてる覚えてる!包帯で処置されて誰かわかんないくらいだったもん!」
「うるっせぇよ!」
ドッと盛り上がる笑い声には、バーダックの罵倒混じりながらも高らかな笑みも加わっていた。
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