小説

□上昇。
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そのほんの僅か前…二人が激しく視線を交わし静止と沈黙が続いていた時―――

悟空達周囲は耐え切れずにこしょこしょと小声の応酬が始まっていた…


「兄ちゃん、アイツ何なんだ?」


悟空がラディッツを肘で小付きながら尋ねる。
サイヤ人というのは見た目から分かっているので、質問先としては間違ってない。
だが、ラディッツは「ん"〜」とうねりながら小首を傾げて明後日の方を向く…


「さすがに俺もよく覚えてねぇよ〜」


皺を寄せた眉間をポリポリ掻いた後、大柄な身体を周りに合わせて屈め「確かな…」と続ける。


「俺よりちょっと上で、若いのに頭が良くて、早くから遠征に出たりして…だけどチームプレーの下手なヤツで……」
「十分な情報だと思うんだけど……」


よく覚えてない…のよくとはどれくらいを指すのか――クリリンがさりげなくツッ込んでいたのは、まだまだ語られる昔話並のラディッツの説明に、乾いた笑いが生じ始めた時だった。





当前のようにその会話の流れになどのらないベジータは、空中の両者を厳しい眼差しで見つめていた。


(――ターレス…と呼んでいたな……あの男の事は王宮で聞いたことがある。――神の力を得ることが出来る…そんな嘘臭いモノの調査に行かされた下級戦士。――確か帰還してすぐに行方をくらませた……と)





地上から遠ざかった二人に、各々の思いが交ざり合った視線が集中する。―――が、宇宙船付近にいたターレスの部下と思わしき数人がバッと散らばり、同時に気弾を仕掛けてきた。

多彩に閃光煌めくソレを、悟空とベジータは片手で弾き、他は前後左右に避けて直撃を回避する。
弾かれた輝きは岩山を壊し、避けられたソレは地を抉る……辺りに轟音が生じ、土煙がもうもうと立ち上った。
上空にまで、視界を遮る埃っぽい風が舞い上がる……

攻撃の態勢を整えた両陣がタイミングを謀るように、グッと力と息を詰め……先手を取ろうと部下達が攻撃を続けようとした、その時――


「うるさいっ!!……お前たちは船に戻っていろ!」


ターレスの怒号が降り注ぎ響いた。地上にいた悟空達も直ぐ様反応して空を仰ぐ。
ビクッと身体を震わせ互いの顔を見合った部下達は、コクリと頷くとバラバラと宇宙船に戻って行く。舌打ちも漏れる中、殺気にギラつく瞳を残し全員が命令に従い待機するべく船内に消えた。

何の動きも見せない上空の2人と宇宙船に困惑の瞳を交互に往復してから、悟飯は父の様子を確認する。
拍子抜けしたようにガシガシと頭を掻き、「めぇったな〜」と苦笑いで皆に同意を求める視線を寄越していた。


「と、とにかく……オレ達も少し…様子を見てみるか?」


クリリンがこめかみをポリっと掻き、悟空と同様に引きつった笑みを見せた。
悟飯も首をかしげて、ラディッツや悟空に問うような眼差しを向けるしか出来ない。


「あ〜…っと…俺カプセルハウス持ってきてたから出そうか?……ってかどうする?悟空。」


ポケットからカプセルを出して見せたクリリンだが、困ったように掌で弄びアハハと乾いた笑いで誤魔化す…


「ん〜取り敢えず休んじまうか?」


緊張感のまるでない笑顔だったが、仲間内にはホッとする気分を与えてくれた。

――が、対照的に厳しい表情のベジータは上空を睨み続けたまま。悟空が話し掛けようと、「お〜い」と声を出しかけた時ラディッツが片手で制してきた。


「ちょっと、俺が行ってくるよ!」








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