小説
□記憶
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「……貴様は
カカロットではない、な?」
警戒したような物言いに、フンっと鼻をならして口元を緩めたバーダック。
スカウターの数値をチラリと見て機械を切った。
「ずいぶんでかくなったじゃねぇか……
……王子」
「……やはり、バーダック、か」
驚愕したような、腑に落ちないような、複雑な面持ちの表情で王子……そう呼ばれたベジータは、突然の来訪者の名を呼んだ。
方眉をピクリとさせ不敵な笑みを浮かべたバーダックは、静かに瞳を閉じ、そして同様にゆっくり開いた。
「すぐ分かったぜ?面影ありすぎで笑えらぁ。
……強く、なったな。さすがは王子サマだ。」
「ふん……
当たり前だろう。俺はエリートだ。貴様の様な下級戦士ではない。
とっくにあの時の貴様は追い抜いたはずだが……
何故また戦闘力が増しているんだ!?
いや、それ以前に死んだはずではなかったのか!?」
ベジータは威張りまくりにまくし立てたのに、目の前の男は微笑しゆっくりと近づいてきた。
そして特徴的なツンツン頭にポンポンと片手を添える。
「ドラゴンボールってのの仕業らしい。詳しいことは面倒くせーから、ラディに聞け。」
「相変わらず気安く触るなっ!!
……ラディッツのヤツも居るのか?」
バーダックの手を払い除けながら鋭い目をパチリとさせるベジータ。
(――変わらねぇな。)
目を細めて見下ろすのは、かつて自分の足元で踏ん反り返っていた、ませて生意気なガキ……ではない。
身体こそ小柄だが、立派にサイヤ人の戦士に成長している王子……
「ラディにあれからのことを軽く聞いた。……悪かったな、王子。
色々と約束してたが、全部果たせないままだった…」
軽く頭をかきながら少し眉を下げる仕草が、あまりにも昔と変わらなくて、ベジータは苦笑いせずにはいられなかった。
「同情など御免だ。
悪いと思うなら今から果たせ!」
ニヤリと口角を上げたベジータは組んでいた腕をストンと下ろし、拳を握った。
「ばぁか!同情なんかじゃねぇよ。少しばかりの後悔だ……」
ベジータと同じように拳を握り、自嘲気味に笑ったバーダックは構えをとる。
ベジータはフンっと鼻を鳴らしながら、先程のバーダックのように瞳を閉じた。
―――いつもいつもガキ扱いして手を抜きやがって!いつになったら本気を出すつもりだ!!
―――ガキをガキ扱いして何がわりーんだよ?殺してほしいのか?
―――ちがう!オレ様は
―――まぁ、成人したらもっとマシに遊んでやるよ。楽しみに待っててやるからサボらず腕研けや!
昔の会話を思い出しながら身体に力を込めたバーダック。しかし、眼を開けたベジータから待ったの声が上がった。
「この場で手合わせするのはやめておく。煩く文句言う地球人がいやがるからな!
こっちに来い!」
「なんだ、お前も頭が上がらねぇ地球人がいるのか?そりゃおもしれぇ。後で会わせろよ?」
ククっとニヤつくバーダックを一睨みし、ベジータは重力室を目指す。
(あの女は煩わしすぎるんだ!こいつも一度あの図々しさを経験すればいい!)
後ろを歩くバーダックには見えないだろうが、額に青筋立てて怒りオーラをまとったベジータは、男が入室してすぐ力任せにバタンっと扉を閉めた。
「…へぇ。こりゃ、惑星ベジータにあったトレーニングルームと似たようなもんか?」
一周グルリと見渡して中央の操作パネルを見付け、歩きだす。
「いや、この星の文明は低いからな。フィールドも現れんし外装も脆い。…だが」
ベジータもバーダックに続き中央のパネルに向かう。そこでいくつか操作しながら答えた。
途端に室内に低い音が響き渡り、ズンっと身体が重くなる。
よろけると迄はいかないまでも、グッと踏み出した足に力を入れたバーダックが低く舌打つ。
「……重力か。こりゃ随分なトレーニングじゃねぇか!」