小説
□記憶3〜更に最強〜
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温かなお湯を全身に浴び、ゴシゴシと顔を洗い流す。うたれたまま一息ついて壁に両手をもたげた。
特徴的にはねる髪も重力に流れ、見つめる足元に見慣れぬ影を作る。
(……王子に会うとはな。)
高揚した気分も先程のスプリンクラーが見事に沈めてくれた。今は客観的に状況を確認できる。
(くくっ…中々面白いもん見せてもらったぜ!生き返ったかいがあるってもんだ…)
思い出せば思い出すほど笑いが込み上げてきて、肩が揺れる。
バサリと頭を上げざまに髪の雫をはらい、湯を止めた。ブルマに「服が乾くまでこれ着ていて」と渡された肌触りの良いざっくりとしたシャツと短パンに袖を通す。
「地球の服ってのはどれも脆そうなもんばかりだな……」
自身を眺め、呟きながらシャワーの前に指定された部屋を目指した。
自動的に開いた扉をくぐると、なんともイイ匂いが漂ってくる。すぐに腹の虫が正直な音をもらしたので、山盛りの皿から一つ失敬しようとした あら〜 と甲高い声が聞こえバーダックの身体がビクリと跳ねた。
「だめよ〜まだ皆さんそろってないんですからねぇ〜?悟空ちゃん…じゃあないみたいね?
新しいお客様ね?お嫌いな物はないかしら?
うふふ。悟空ちゃんそっくりだけど貴方のほうが男性味があってママ好きだわぁ♪」
ふにゃりふにゃりした話し方に軽く顔半分が痙攣したバーダックと、ニコニコ笑顔の目の前の女性――
呆然としていたら、見つめられちゃ恥ずかしいわぁ♪ とトレイを持ってない方の手を頬にあて、更に微笑んだ。
「ち、ちょっと母さん!!ふざけちゃダメよ!
この人サイヤ人なんだから。」
慌ててキッチンの奥からブルマが出てきた。
それでもまだのんきに、ベジータちゃんと一緒なのね〜 と楽しそうに言うので、ブルマがぐいぐいキッチンに押し返していく。
(ベジータ…ちゃん!?)
ブハッと吹き出した。
ベジータちゃんを繰り返して肩の揺れが止まらない。腹を抱え、山盛りの食事がのるテーブルをバンバン叩けばフルーツがコロコロと落ちて行く―――
バーダックがそれを目尻にうっすら涙を浮かべながら目で追えば、入り口でコツリと何かに当たり止まった。
不意にそれが足だと分かり、視線を膝辺りまで上げてソレに気付いた――殺気だ。どす黒くメラメラするような殺気がこの足元から立ち上がっていく……
「よぉ、ベタータちゃん?」
一際濃くなった眉間の皺と共に殺気も膨れ上がって、ビリビリと周囲に振動を起こす…
(相当お怒りのようだ…ククッ)
「あ!ベジータも来たのね?じゃあ揃ったし、食事にしましょ?アンタたちサイヤ人に合わせてたっぷり作ってもらったから、遠慮せずにどうぞ〜♪」
自らも席に着きながらイスへの着席を促すブルマ。ベジータも取り合えず厄介な母親がいないので、殺気を沈めて座った。
(遠慮などするタマではないだろ、あのクソジジィ)
ギロリと睨んだ先には、上機嫌の件の男。
「え〜っと、私はまだ仕事あるからコーヒーにするけど、アンタたちはどうする?再開を祝してビールでも飲む??」
「――っ祝さん!!」
「お!何だ、酒あんのか?」
ブルマの提案にキラリと目を輝かせてバーダックは要求した。
「もっちろ〜ん♪世界中のアルコールあるわよ!どんなのが好きなの?」
グッと親指を立てながらウインクするブルマを確かにイイ女だなと思いながら、適当に強いのを頼んだ。
「早々に地球人と馴染むな、バーダック!」
「何だ?俺が馴染んじゃ女が離れて不安か?」
「――っこの!!
貴様とはもう喋らん!疲れる!」
尚も肩を揺らすバーダックが憎らしげで、ベジータは食事のペースを早めた。
さっさと立ち去ろうという算段だろう……
「これとかオススメよ〜!辛口だけどさっぱり系♪」
数本のビンを抱え持ってきて並べながら説明を述べていくブルマは、きっと全ての酒を飲んでいるのだろう。細かな感想まで付け加えていた。
しかしバーダックは量が呑めればいいと言うので、ブルマのオススメを注いでもらいクッと喉に流し込んだ。
「…はぁ。久々の酒だ。地獄じゃ飲めなかったからな――」
黙々と食べ続けていたベジータも、その台詞にピクリと反応する。
食器を静かに下ろし、テーブルの上で拳を握った……
「貴様もやはり、フリーザにやられたのか?」
「あ゛?あぁ、俺だけじゃねぇよ。数人を残して全てフリーザが消した。」
「……数人、な。」
「お前に、ナッパ、ラディッツ、地球に飛び立っていたカカロット……それに、多分アイツも――」
「ねぇねぇ、ラディッツって孫くんがやっつけたサイヤ人じゃない??
…あれ?確かお兄ちゃんって……
え?もしかしてアレも息子??」
アレ呼ばわりされた長男を不憫になんて思わないバーダックは、眉を上げて目で答えるだけだった。
子供同士が殺し合った状況なのだが、別に何も思わない。それがサイヤ人――
「ずいぶんごちゃごちゃした事になってるのね??」
バーダックはそうか?と答えるだけで食事に集中し始めた。どうやら詳しく会話をする気はないらしいと感じたブルマも、小さくため息するのみ。
(後で孫くんに聞けばいいや。)
と軽く考えを流した。
――しかし、当の友人に尋ねるのはだいぶ後になる。翌日ベジータがポツリポツリと教えてくれたことで、粗方検討がついたからである。
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