& ターレス

□夏の策略
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季節は夏。
ジリジリと照りつける太陽は最高潮の輝きで人々を見下ろす午後1時。
大量の弁当を広げ、早々にたいらげたサイヤ人水泳部のメンバー(プラスマネージャー)達。

部室だから部外者がいないのをいいことに、大声で食後のバカ話しに華を咲かせていた。

3年生で主将のバーダックの定位置は、数年前から設置してある一番広いマッサージチェア。(誰が持ってきたかは代々の謎)
副主将はトーマ。部員の誰もが、気が利いて優しい彼に主将になってもらいたかったのだが、『偉いのはこの俺だ』と言うバーダックのごり押しに誰も逆らえず、サブの位置で決まってしまった。そんな彼の定位置は主将の左にあるパイプ椅子。

反対側の右隣の椅子には、2年生エースのターレス。時期主将有力候補だ。鍛え甲斐のある男なのだがイマイチ練習に集中出来てないのが、バーダックやトーマの小さな悩み。
もう1人この場にいるのが、2年マネージャーの立場を浮上させられないでいるダイーズ。『サイヤ人水泳部』なのに、ターレスさんの泳ぎに惚れ込みました!と意気込んで入部してきたのだ。
勿論戦力外なので公式に泳がせては貰えない…しかし、彼は眺めているだけで幸せそうだから誰も何も言わないのだった。

更には、小さめの椅子に座るのは一年生部員のラディッツとカカロット。
パシリ扱いのラディッツとは異なり、カカロットはその天然ボケキャラの賜物か、巧いこと命令をかわすスベを持ち合わせているため…同級生の二人の立ち位置は天地の差だ―――


もう一人、二年生部員がいるのだが……


「今日ベジータいねぇじゃねぇか。どうしたんだ?」


カカロットが、およそ最下級生とは思えぬ口調で問う。それをいつも冷や冷やしながら心配するラディッツ……


「ベジータは生徒会の方に呼ばれて忙しいみたいっスよ。ねぇ、ターレスさん?」


ダイーズがにこやかに答え、ターレスは首を縦に動かすのみで反応を示した。


「あんにゃろアッチもコッチも首突っ込みまくってるから、いつもイラついてんだよ。少しはユトリを持てってんだ――」


バーダックがヒザを組み直して頬杖つきながらため息した。
件の生徒はどうやら多忙を極めあまり付き合いのよくない男のようだ。


「――さて、そろそろ本題だ。今年の恒例肝試し♪どこにする?」


脱線しまくる会話の流れにパン!と両手を打って軌道修正するのは、やはり頼りになる副主将。
サイヤ人水泳部の例年の恒例行事だ。

去年はベタに墓地にしたので、今年は違うところにしたい と横暴主将の一言で会議を開くことになったのだった。

途端に顔色を変えるのはカカロットとターレス……

ニンマリするカカロットとは対象にひきつった面差しのもう一人。


――水泳部期待のエースであるターレスだったがこの男、あまりこの手のモノが得意ではない。


去年は最下級生だったこともあり半ば強引に引っ張りだされてしまっていた……
近所の墓地を1人でグルリと回る。そのルールを聞いただけで気分は卒倒しそうだったが、いかんせん身体は丈夫だったため変化もなく――
青ざめてるターレスを見付けたトーマが、『パスさせてくれるよう交渉してやる』と言ってくれたのだが、自身の馬鹿デカイプライドが邪魔をして強がった挙げ句……一番手で出発させられてしまったのだった―――


そして…
いざ引きつりながらも出発したはいいが……


スタート地点の部員が見えなくなった辺りで進む足取りが弛んでしまったのだった――


僅かな草の擦れる音がヤケに響く……

何かの虫の泣き声が震えたように聞こえてくる……


夜だと言うのに耳元には夏の風物詩であるセミの……チクチクする足に大音量の鳴き声―――





(「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」)


寸でで力一杯口を塞がれた。


悲鳴は間一髪で手の平に飲み込まれて消える。



「――なっ!なっ!?なっ………」
「『な』じゃねぇよ。セミ。」


思いっきり動揺を隠せずに後ろを振り返れば、ドアップの、セミ――――


「―――――――っ!!」


ビックリしてまた開いた口を再び強く押さえ付けられて、声は掻き消えていった……

シンと静まり返った墓地に小さく響く、喉の奥から鳴る笑い声。


「バ、バーダック!!」
「ククク…気付くの遅ぇよタコ。」
「あ、アンタ何を――」


ニヤつきながら目の前にセミをちらつかせていたバーダックの手を叩き、訳が分からないと言うような表情でターレスは問うた。

――叩き落とされた哀れなセミが再び舞い上がり静寂の暗闇に帰っていく…


「テメェがちんたらしてっから二番手の俺が追い付いちまったんだよ。さっさと行くぞ!オラ!!」


唖然としていた背中を強く叩かれて思わずよろけてしまうターレス。

しかし、彼の頭の回転は早い。直ぐに違和感に気付いた。


(確か二番手はダイーズだったはずだ……)


1年は先に出発しろと最初に言われたのを思い出す。
何で2年のこの男が…?とターレスは首を傾げた。数歩先を行っていたバーダックが眉間に皺を作りながら振り返る。


「ターレス!置いてくぞ?!」


ターレスはハッとして辺りを見渡し、急いでバーダックの後を追い掛けついていくのだった。








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