& ターレス

□思うということ。
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校舎のすぐ横にある体育館。そのまた隅には行事の時以外あまり使われない倉庫がある。
この学校では絶好の告りスポットとして有名な場所。何でも成功率が80%を越えると言う噂だ。
俺に言わせれば、誰が統計をとってるとゆーのか…馬鹿馬鹿しすぎて笑えてくる。
――そして今日、俺はまたそこに呼び出されていた。


ベタなことに下駄箱に手紙が入れてあった。そしてこれまたベタに放課後来てほしいと。
名前はない。

(普通名前くらい書かないか?まぁ、俺の性格知ってれば危ないことはしないか…)


今までに何度となく呼び出されていた俺。返事はもちろん顔と身体次第。
名前を知ってて断るのが面倒な時は行きもしない。

自分でも、よくこんなロクデモナイ男に惚れるなぁと不思議になる程中々にイイ女もいたりする。


前回少し前に告られた女も身体は良かった…が性格的に疲れたので二〜三回抱いて別れた。

約束の時刻を過ぎてから現れた俺を見つけて、女生徒の顔が綻んだ。

「ターレス君……」


……いまいち好みじゃないな。それに今はセックスしたい気分でもない。


断りに来た旨を伝えると、涙を流しながら誹謗中傷された。

迷惑極まりない。
勝手に惚れられ、勝手に非難され――
女は…というか色恋沙汰は正直俺にとって暇潰しみたいなものなんだ。
何故あんなものに熱くなれるのか、不思議でならない。


誰かに心を奪われることはないし、長く興味を持ったこともない。



はぁ…と疲れた溜め息をついて、後ろに誰か人が居るのに気が付いた。

「――覗きが趣味?
ウザイからどっか行けよ。」


振り返り様に冷たい眼差しを送ってみれば、そこには自分より大きな影。
教師か…と顔を確認すると、世界史教員のバーダックだった。


「ガキの癖して可愛くねぇふり方だなぁ。
女ってのはナメて見てると痛い目にあうぜ?」
「それ経験談?」


クッと喉で笑われたのが気に入らなかった。俺が問い返せば、さぁな とはぐらかして去っていった…

(なんだアイツ…)


眉間の皺を濃くしてバーダックの背中に舌打ちする。

ここから帰る為にはアイツと同じ方向に行かなければならない。物凄く癪だったが少し距離をとって後に続いた。

校舎が見えて来た辺りで、バーダックを呼び止める声がどこからか聞こえた。それに無意識に目線をなげれば、小柄な校長が足早に寄ってきている。
ここで会っても面倒くさそうなのでスッと建物の影に身を潜めた…


「探しましたよバーダック先生…この間の件お考えくださいましたか?」
「あ〜見合いのことすか?申し訳ないんですが、俺は死んだ嫁さん以外を迎えることは今のところやっぱ出来ないんで――お断りをしたいですね。」
「…そうですか。
先方が是非にとおっしゃってたのですがねぇ…残念です。」


その後二、三言やりとりして校長がいなくなったのを感じる。バーダックが盛大に溜め息をついた後、ククッと笑ったのに気付いた。


「覗きが趣味か?クソガキ。」


――ムカつく。

さっきの俺を真似ているのだろう。こちらに振り返り偉そうに腕組みしてニヤついていた。


「別に聞きたくて聞いたわけじゃない。大体アンタが見合いしようがしまいがどうでもいいし――」


言いながら外方向けば余計に喉を鳴らし、可愛くねぇガキだ と低い声が聞こえた。そのまま靴音が遠ざかって行ったので、俺も一度一呼吸してからその場を去る。


(――変な教師…でも……)







バーダック、35歳。
長男、14歳。
次男、5歳。
次男誕生時に妻死亡。
自宅は一軒家。
両親はすでに他界。
世界史教員、柔道部顧問
授業は適度に適当。
部活動では鬼。
休日はぐうたらして過ごす。
女性教員・生徒からの人気大。



(ふむ……)

少し聞き回っただけで何ていう情報量…どうやらヤツは相当に女の目を引くらしい。
聞きもしない小話まで散々付き合わされた――


(――死んでもなお思い続ける…か)

あの口の悪い教師がそんな律儀な男に思えず、実の所はどうなのかと気になり情報通の生徒を何人か捕まえて詮索してみたのだった。


(ボロは出てこない…)


つまらなかった。
自分と似たような男ではないかと少し感じたから興味持てたのだが……

失せた。


死んでしまった者を思う気持ちは、時と共に風化するものだ。人はいずれ死ぬ。
――ならば今生きている者を思ったところで、やがて風化すると分かっていて、どうやって、何故愛せと言うのか……


現在進行形の『興味』なら持つことはできたが、一度失せた思いにダラダラと執着することはない。

俺の中では女も男も、興味が持てるかどうかが全て。それ以外は必要と感じない。
別に、いらない。






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