小説
□そして
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「酒で得るのは破壊衝動だけだったんだ。」
お開きになった酒宴。皆が散り散りに帰って行く中、玄関から出て夜空を眺めながら佇んでいたターレスが誰にともなくポツリと呟いていた。
真横から吹き荒ぶ風に跳ねた硬質な髪は束になって揺さ振られ、しかし通り過ぎれば何事もなかったかのように乱れる事無く元に戻る。
それが聞こえたのも見えたのも、塀に寄り掛かるようにして隣にいたバーダックだけ。明るい三日月に照らされた二つの影は足元からグンと長く伸びているが、身長差を物語る黒い彼等は薄くぼやけ何ともボンヤリとつっ立って見えた……
バーダックは横目でターレスを軽く観察し、自分へ話し掛けられたのだろうかと一瞬考えてはみたが、結局面倒臭く感じて思ったままに口を開いていた。
「そりゃぁテメェ、つまんねぇ酒飲んでたんだろうよ。」
「つまらない、酒?」
「誰とでもいいが、向き合って飲みゃちったぁ楽しい。まぁ、たまには1人でいたい時もあるだろうがな。」
バーダックを不可思議に見上げてターレスはそのままに問うていた。そんなターレスに不適な笑みを携えて、腕組むバーダックは目線を少し下げて言い切る。
「向き合う―――?」
「は?」
「意味が分からない。大抵向かい合っているじゃないか。」
それに首をかしげたのはバーダックだ。丸い黒曜の瞳を月明かりに晒しているところを察すると、純粋な疑問なのだろうと思いつく。こめかみの辺りをポリッと掻いて、呆れたように眉を寄せた。
「ん〜、あー、違ぇな、ソレは。テメェの言うのは対身体。俺の言ってんのは対精神。」
「精神的に、向き合う…?」
「頭の回転は早ぇんだ、テメェも少しはさっきみたいな冗談の1つでも言えや。」
「俺はアンタみたいにおチャラけてない。」
「…くっ、はははは!それでいい。テメェちゃんと適応力あんじゃねぇか!」
「……酔ってるのか?」
「あれしきで?まさか。何なら今から地上げでもしてきてやろうか!?」
極悪な笑みが月明かりに陰る。
ターレスの双眼に、それは己と見紛うたかと思うほどの狂気に映った。
反らす事も忘れて見つめ続けていた黒が淡い輝きを戻し始めると、心底不可思議なモノを目にしたと言うように表情が歪んでいた。
「……変な奴なだな、アンタ。」
「テメェに言われたくねぇよ、クソガキ。」
クッと喉を鳴らしたバーダックは破顔し、さも楽しげに低い位置にあるターレスの頭をはたいていた。
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