小説

□はじまり
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下級戦士だが、若くして遠征に出れるほどの戦闘力やセンスを持っていた、その少年。
…勿論それはバーダックの比ではないのだが、話題に事欠かぬ少年を最早知らぬ者はいなかった。

百戦錬磨のバーダックに上官であるエリート戦士が相談に来たのは、非番を持て余してトレーニングルームで一暴れしていた時。


『こいつは他では手に負えない。お前が適当にどうにかしろ!』


首根っこ掴むようにして連れられて来た自分にソックリな少年を、バーダックはきな臭そうに酷薄な視線で迎えるのみだった。
…まだ子供っぽさの残る、肌の黒い同族のガキ。


それが二人の初めての出会い。



(こいつが噂の、な……)


いきなり呼び出されたかと思ったら、部屋を出てすぐ汗を拭く間もなく目の前に押し付けられていた。
むせ返るような熱気を含んだトレーニングルームの自動扉を一歩抜け、快適な室温が心地よくバーダックを迎えてくれたのに、熱気よりも増した不快感で眉間に皺が寄る。
そんなバーダックなど気にすることもなく、上官はターレスと言う名だけを告げ、やることは終わったとの如くさっさと部屋から出ていってしまった――


ターレス。
バーダックも名前は知っていた。
初めての遠征先で、チームの仲間もろとも敵を貫き殺し……
二度目には当人以外の生存者ゼロ。決してそのチームにとって難しい星ではなかったにもかかわらず……だ。

上の人間はもめた。

処分すべきとの厳しい意見も出る中、上手く使えばもう少し役に立つかもしれない――と、結果他のチームに入れて様子見という、ダラダラな処置が下る。


…しかし少年は新しい配属先でまたトラブった。
年配のリーダー命令に背き勝手に作戦を変えて単独に進め、仲間全員を危険に晒してしまった。

お手上げだ。
サイヤ人の誰も、チームを組みたがらないのだ。

処分するには惜しいと考えた先程の上官が、そこで白羽の矢を立てたのが、下級戦士随一のバーダック。


半ば無理矢理押し付けられた形になったが、戦闘力ではかなりの差がある。危険を感じる迄もない子供だ、とバーダックは特に深くは考えなかった。

元々バーダックのチームはそんな勝手な輩の集まり。どうとでもなるだろうと、なるようになるだろうと、楽観的に思っていた。



休憩室でもある人が行き交う部屋に、ただ見合って立つ2人には好奇の目も飛びかう。しかしバーダックは汗だくのままジロジロとターレスを見下ろし終えると、フンっと鼻を鳴らして手近にあったタオルをひっつかんだ。
目をそらすでもなく、むしろ睨み付ける様にバーダックを眺めていたターレスは、その態度にムッとする。


「むさ苦しいんだよ。オッサン。」
「……俺は着替えてぇんだ。ボケッとつっ立ってねぇでどけよ。」


プロテクターを着けていない躰はアンダースーツのみ。彫刻の様に隆起した筋肉のラインが強調され運動後の熱で蒸気していた。
同じ顔の自分より一回り程逞しいバーダックの火照る躰を、ターレスは鋭角に見上げて深く覗いた――売り言葉でオッサン呼ばわりしたが、どこをどう見ても若々しく、比の打ち所もない男。
見下ろしてくる黒々としたサイヤ人らしい瞳。

しかし
…こいつも違う、とターレスは思った。


(…全然違う――こんなに姿形は似ているのに……)








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