小説

□上昇。
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現れたのは腰に尾を巻き付ける…サイヤ人特有の姿の男――ただ特異してるのはその肌の黒さ。
肌の色や頬の傷などの違いを除けば、三人は本当にそっくりだった。

誰もが…敵の者までもが驚きに染まる。


「てめぇは……ターレス……」
「えっ?」


興味なさげに手元の種を弄んでいた男がバーダックの声に顔を上げる。2人の、これでもかと見開かれた視線が交差した――
瞬きするのも忘れて、名を呼んだ男を見つめる眼差しが揺らぐ…


「ま、さか……バー……ダック??」


息を飲む音がこちら側にも聞こえてきて、驚いた一同が先に声を出したバーダックに振り返った。
それはベジータも例外ではない。
己以外にもバーダックを知っている、サイヤ人と思わしきありふれた下級戦士の姿をした男の存在…
幼い頃の記憶を辿ろうと、眉間の皺を濃くして睨むように相手を観察した。


「まだくたばってなかったのか?……クソガキ」


緊張感漂うこの場に似付かわしくない、どこか楽しげな声でニヤリと皮肉を言うバーダックの言葉を受けて、今度は同様の勢いでターレスへと振り返る面々。
足と地がくっついてしまったかの如く、皆動けないでいた…

睨み合うとも、見つめ合うとも表現し難く視線を交わしている二人が立ち尽くしている以上、周りはどうしていいか分からない…と言うのが本音だ。


「……なんで、あんたがこんなとこに―――」


ようやっと絞りだされたような、微かに乾きを含んだ台詞が返ったのは、荒れた大地に吹く強風が一つ通り過ぎた後…


「まぁ、色々な……」
「……惑星と共に死んだ、って――聞いて」
「くくく…てめぇのンな面が拝めたんだから、地獄に行った甲斐もあるってもんだ。」


腕を組んだバーダックは目を伏せて曖昧に答えた。が、ターレスは依然驚きに支配されながらも、忘れることもできなかった揺るぎない事実の確認を怠らない。――自身の得た情報は確かだった。あのフリーザに破壊された、かつての母星を映した映像は鮮明に脳に焼き付いている…

しかし、からかうように答えたバーダックの言葉にターレスは益々混乱してゆく。

当たり前だ。
ターレスが生きてきた世界では故人が生き返る事などあり得ないのだから…


――だが、現に目の前に居るのは、己の記憶そのままのバーダックだ。いくらよくあるタイプの下級戦士でも、これ程雰囲気も口調も同じなど考えられない。
それに何より、自身の早まる心臓が偽者なんかじゃないことなどとうに見破っている…
ターレスは凝視しすぎて潤いの不足しだした瞳を、ゆっくり閉ざした。

どんなに理解出来なくても…ターレスにとって都合の悪いことではないのだ。


「……っククッ…そう、か――またあんたに生きて出会うとは、夢にも思ってなかった。」


それは少し俯き加減で、自分に言い聞かせるような口調だった。

組んだ腕をトントンとリズミカルに叩き、相手の様子を楽しげに観察していたバーダックは、ターレスの足元がザワザワ振動し始めるのに気付くと、フンっと鼻を鳴らしてフワリと浮上した。

ゆっくりと空へ上がって行くバーダックを目線のみで追っていたターレスも、何かを思うように深く息を吐き、後に続いて上昇を始めた。
自身にザワつく空気を纏ながら―――――




「バーダック……」


間に立つ位置にいるベジータが小さく漏らした呟きは…誰も気付かない―――









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