紫草の野

□夏祭り
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まるで心臓が自分のものでないように脈打つ。
そわそわした気持ちを相手に悟られていないか、緊張していた。
「そういや、今日は各々祭りに行っているみたいだな。さっき重に引き摺られながら祭りに行く舳丸を見かけたよ。」
「重が一緒に行くってはしゃいでたからな。」
「あの二人は相変わらずだな。」
「あぁ。」

二人でとりとめもなく話していると、あっという間に町につく。
町には賑やかなお囃子が響き渡り、御輿の掛け声があちこちからあがっていた。
大きな祭りのせいか、人も多い。
「鬼蜘蛛丸はぐれるなよ。」
「あぁ。」
先に行く大きな背に続く。
ふと、義丸の手に視線が行く。
「(手、繋いだら駄目だよな……)」
自分が女ならば躊躇うことなどないのにと、時々そんな事が頭をよぎる。
迷わずに甘えられるのに、男がべたべたするのは良くないのではないかと、止まってしまう。
「どうした?鬼蜘蛛丸?」
いつのまに振り返ったのだろうか。
心配そうな目と視線があう。
「いや、何でもない。」
「そうか?」
「あぁ。それより、何を食うんだ?」
「そうだな。」
義丸が屋台に目を向ける。
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