紫草の野

□夏祭り
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紺色に鮮やかな桜が美しいその浴衣は、依然義丸が綺麗といっていたものだった。

気づくと俺は自室にそれと浴衣小物一式をもって帰っていた。

「何をやっているんだ。」

自嘲するように笑うと、それらを戻すために、部屋を出る。
「お!鬼蜘蛛丸も祭りにいくのか?」
見計らったように話しかけてきた義丸に心の臓が跳ねる。
「い、いや。特には考えていないが……」
「じゃあ、丁度いいや。一緒に祭りに行こう。」
「は?」
「ん?予定はないんだろう?」
「あ、あぁ。特にないが。」
「じゃあ、仕事終わりに落ち合おう。」
そういうと、すたすたと立ち去っていく。
俺は手元の浴衣に目を落とした。






夕刻、仕事が終わると例の浴衣に袖を通し義丸を待つ。
「待たせたか?鬼蜘蛛丸。」
「いや、今来たところだ。」
義丸も深い紺に波千鳥が浮かび上がった浴衣を着ていた。
「じゃあ。行くか。」
その言葉と共に連なって、歩き出す。
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