紫草の野

□しのぶれど
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「鬼蜘蛛丸に好いた人ができたらしい」

最近まことしやかに囁かれる噂がある。
どこからその噂が流れたのか気になるが、回りの視線も気になってしまう。
あいつにばれないようにそっとそっと隠していたこの気持ちがあいつにばれやしないかと、ヒヤリとしている。

「……る、……丸!おい、鬼蜘蛛丸!」
「うわっ!!!」
「おお!吃驚させるなよ。どうした。最近可笑しくないか。」
義丸は眉を潜めて、此方をのぞきこむ。
「いや、最近忙しかったからな。……それより何か用か。」
「あぁ。お頭が呼んでる。それより、体調でも悪いのか?」
そう言っておでこに手を当ててくる。
「……っ!」
咄嗟に後退り、手を弾いてしまった。
目を丸くする義丸の顔を見て後悔の波が押し寄せる。
「お、お頭が呼んでいるのか。それはすぐに行かなければ。」
顔を見ることが出来ず、まるで逃げるように水軍館に入っていった。
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