匂へどもしる人もなき桜花

□第七の天女
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「何で下のやつは落下地点に走ってくんだよ。普通は逃げるだろうが。」
今にも舌打ちしそうに顔を歪める美月は下を見てさらに続けた。
「下の奴どけぇ!邪魔だぁぁぁ!」


一方の留三郎はその叫びを聞きながら、受け止める体勢に入る。

それを見た美月は、体をひねり回避した。「なっ!」
驚く留三郎を横目に着地をしようと体勢を整えると、突然下から風が吹いてきた。

スタンッ

軽い着地音と砂煙で相手が地面に降り立ったことを留三郎は悟った。

ずかずかずか

着地をした女が此方に向かってくる。
それを見た留三郎はすぐに笑顔を作る。
「ようこそ忍術学園へ。天女様。」
その言葉に美月は首を傾げる。
「忍術学園?ここはあの世ではないのか?」
「いいえ。ここは忍術学園です。天女様に会えて嬉しいです。学園長会いに行きましょう。詳しくはそこで話します。」
留三郎は笑顔で美月を誘導する。
「・・・そうか。」
美月は何かを思案するような素振りを一瞬だけ見せたがすぐについていくことにした。


一人は笑顔でもう一人は怪訝そうな表情で歩いている。
「天女様。天女様は「1ついいか。私はその天女様とやらではない。そんなに美しいものではない。私が天女様なら世の中の女性は皆女神だ。」
話を遮るように美月は否定した。
それでも留三郎は、笑顔のまま「そんなことはありません。天女様はお美しい。」と、褒め称える。
美月は歩きながら周りの様子を伺う。
ちらほらと見える生徒達は美月と目が合うと、笑みを浮かべてこちらを見る。
その生徒達は「天女様」と、口を動かしていた。
その様子をみて、美月は違和感を感じていた。
「妙だな、見えないところから殺気を感じる。目の前の男も一瞬だが殺気を感じた。否、どちらかというと殺気を圧し殺しているといった所か。侵入者に対する警戒にしては少しおかしい。」
美月は静かにそう考え、周りを警戒しながらついていく。
「1ついいか。お前の名前は何て言うんだ?」
美月は目の前を歩く青年に声をかける。
「俺ですか?俺は食満留三郎と言います。天女様」
そうして嬉しそうな笑みを浮かべる。
そのときに初めて、留三郎の足が止まる。
「天女様こちらです。この中に学園長がいらっしゃいます。」
そう言うと、中に向かい声をかける。
「学園長。6年は組食満留三郎です。天女様をお連れいたしました。」
そう言うと、中から返事が返ってきた。
「入りなさい」
その言葉を聞き目の前の食満留三郎と名乗った男は扉を開きなかに入る。
美月も周りを警戒しながら、中に入った。
中には先程の声の主と思われる老人と黒い装束を着た人がずらりと並んでいた。
「座りなさい。」
老人は目の前の座布団をさして促す。
「失礼します。」
美月は周りを素早く確認して静かに座布団に腰をおろした。
「さて、天女様。わしはこの学園の学園長で大川平次渦正という。お主がここに何用で参ったのかは知らぬが、此処で働いてはくれぬか?」
老人の言葉に美月は訝しげに学園長を見る。
「何故、何も聞かずにここにおこうとする?」
すると学園長は一瞬だけ目を細めて言葉を続ける。
「この学園にはお主が来る以前から何度か天女様がいらしている。その天女様を保護していたから、お主の事もこの、学園で保護すると決めたのじゃ。ただし条件がある。」
「条件?」
「そうじゃ。学園のことを他のものに流さないこと、それから学園のお手伝いをすること。この二つじゃ」
「それだけか?」
「それだけじゃ」
二人の視線が静かに交わった。
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