紫草の野

□雨降って
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「兄貴!鬼蜘蛛丸の兄貴が!」
あのあと、俺は舳丸と重に凄い勢いで自分の部屋まで連れていかれ、布団に沈められた。

疲れからか少し微睡んでいたところに、血相を変えた舳丸が飛び込んでくる。
滅多に顔色を変えない弟分の血相に嫌な予感が駆け巡り、飛び起きる。
「とにかく来てください!」
引き摺られながら着いていくと、そこには目を開けた鬼蜘蛛丸の姿があった。
「義丸……」
ずっと寝ていたからか声はがらがらで掠れていた。
「あぁ。」
思わず涙腺が緩みかけて、咄嗟に手で顔をおおう。

「鬼蜘蛛丸……」
「ああ。」
「鬼蜘蛛丸……」

その声に鬼蜘蛛丸が生きていると実感する。
いつの間にか側には誰もいなくなっていて、ポツンと湯飲みと水差しが置かれていた。
「あいつら、察しが良すぎるだろう。」
思わず苦笑いをして、鬼蜘蛛丸を起こしてやる。
「飲めるか?」
「あぁ。」
こくこくと喉仏が上下する。


「寝過ぎだ。」
「すまん。」

眉を下げた鬼蜘蛛丸が申し訳なさげに、項垂れる。
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