紫草の野

□ポーカーフェイス
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俺にとって舳丸の兄貴は、一等尊敬する先輩で、一番愛しい恋仲で、いつか追い抜きたい人でもある。
兄貴はいつも無表情で何を考えているのかが分かりにくい。
でも、そんな兄貴が唯一俺と一緒の時は表情を弛めてくれる。
それは、恋仲の特権だと思ってた。

「あ、舳丸の兄貴」
偶々仕事が休みだったため、町に繰り出していた。
前方に兄貴を見つけて、駆け寄ろうとして思わず足を止める。

「誰だ?」
よく見ると舳丸の兄貴は1人ではなかった。鮮やかな緑がかった長い髪。
「女・・・」
思わず言葉が滑り落ちる。
本来ならば良くないと思いつつ、こっそりと後をつける。
2人は髪紐の店で立ち止まる。
兄貴は女に何かを話しかけながら髪紐を手に取る。
女の顔は此処からは全く見えない。かといって近寄れば鋭い兄貴のことだ。すぐにばれてしまう。
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