宵の明星、魂は輝く

□女狐の走駆
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『……とっ捕まえるのはいいんだけどさ、それ、この御時世で許されるの?』

「どういうことでィ」

局長室から出ると同時に誰にともなく疑問を口にする。

『だってさ、相手は天人なんでしょ?警察が動いて簡単に事が済むわけないじゃん』

なんせ上は腐ってる。暗にそう言えば、十四郎は鼻で嗤った。

「ンなこたぁ近藤さんだって分かってんだろ。つまり目的は天人じゃねぇ……奴隷解放のほうだ」

『天人の組織って言っても、買い手に人間がいるならこっちで商売してるのは
同じ人間である可能性が高い。そっちを捕まえろってことね』

「チッ、足場からチマチマ崩さなきゃいけねぇなんてメンドくせェ。頭叩いちまえば一瞬でさァ。あげは、一緒に行こうぜ」

『そうだね、十四郎の制止なんて聞かなくてもいいよね、賛成』

「ヤ・メ・ロ」

睨んでくる十四郎。うん、今日もいい瞳孔の開き具合だね。
有毒な煙まで振り撒きやがって。死ねばいいのに。

「……全部聞こえてるぞテメエ」

『え、まじで?』

どうやら駄々洩れという悪癖があるらしい。今初めて知った。
でも物事を正直に言うって大事だよね、ため込むのはストレスにつながるしね!

なんて自分で納得して頷く。
そんな私を十四郎は気味悪そうに見下ろしていたらしいが、全然気づかなかった。





にしても、天人の奴隷売買組織――か。
妙な話だ。
まず、天人ってのが引っかかる。
いや、なにがどうおかしいのか、というようなものではなくて、
これはもう長年の戦闘経験だったり私の知識を総合した結果からくるもので、いわゆる“におう”というヤツだ。
感覚的かつ微弱なそれは、無視するにしてはあまりにも気持ちが悪い。
アイスの蓋を綺麗にし損ねた、みたいな。
次に、壇上にあがる唐突さ。
近藤さんは無闇な行動を規制するために敢えて隠していたと言ってたけど、それにしては唐突だ。
資料室にある過去の事件についての結果報告書を定期的にチェックしているけれど、それらしいものは一枚もなかった。
あくまでも伏せられていた、ということだ――近藤さんの胸中に。

あらゆるところで納得がいかないことが多い、気がする……のは私の気のせいなのだろうか?
十四郎と総悟は、気付いていない……?






((それとも…………))





















私が、“怯えてる”所為――?




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