宵の明星、魂は輝く

□女狐の走駆
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最近名の上がってきた天人の集団があるらしい。
そいつらはいわゆる治安の悪い土地にある裏組織のようなもので、人間・天人を問わず売買を専門的に行う。
欲を晴らすだけのための女、家畜同前の働きをさせられる男、人間より丈夫で長持ちするという理由をつけられた下位の天人。
何にしても胸糞悪い連中だと言うことだけは確かだ。
いや、こういった売買が成立しているということは、それを成立させる相手がいるということ。
つまり、奴隷の買い手がいるのだ。
同等、もしくはそれ以上に腐っていると言えるだろう。
そのほとんどが天人だが、実態は深刻だった。
この江戸幕府の中枢、うまい汁だけを舐めとっている一部の性悪役人や、性格の悪い天人に仕える性根の腐った人間が買い手となっているらしい。
だが話だけは耳に入って来はするものの、その尻尾は未だ掴めず。
江戸のどこかに小さく分割された組織の一部が潜んでいるというのにもかかわらず、
一切動いた形跡を残さないのだ。
しかし見つからないからと言って、躍起になって探そうとすれば逆に真選組が目立ってしまう。
そうなれば上の買い手が黙ってはいないだろう。
何かしらの理由をつけて水面下で警告をするか、あるいは……。

真選組という位置づけとして、不用意な行動は禁物。
だから今の今までその存在をぼやかしてきた。






「その組織が、ついに尻尾の先を見せたんだ。
念のため監察のやつらに江戸を張らせていたんだが、山崎の手柄だな」

ああ、だから最近退を見かけなかったんだ。
ゴリラの話に、私は胸中で別の話題に納得する。

「……で、その組織ってのはなんていうんだ近藤さん」

はた迷惑な煙草を燻らせて、十四郎が問う。
ゴ――近藤さんは、懐からメモ用紙のようなものを取り出すと、スッと畳の上を走らせて私達に見せてくれた。


「その組織の名は――銅鑼紅衛だ」

『……』

「……」

「……」











『ハイッ、かいさーん!!』

パンパンと手をうって促せば、十四郎と総悟はただひたすら無言で退室をしようとした。
私も部屋に戻って油揚げ買いに行こうかな。

「待ってトシ!総悟、あげは!ちゃんと話を聞いて!?なんか俺だけ恥ずかしい人みたいになっちゃってるから!!」

ガッと掴まれた……というより縋り付くようなみっともない体勢で近藤さんは必死に私たちを引きとめる。

「近藤さん、俺は真面目な話をしたいんだ」

「いやいたって真面目だから!少なくとも俺は真面目だからァ!」

『嘘つかないでください。なんですかドラクエって。学校の同好会じゃあるまいし』

「なんで徹底して敬語なの!?心なしか遠く感じるんですけど!」

『遠いに決まってんでしょ?野生のゴリラと人間じゃん、ね、総悟』

「狐のあげはが言えることじゃねぇだろ」

『馬鹿にしないでくれる?狐は神様に近い生き物だから。こんなゴリゴリしい生き物と同列に扱わないで』

「え、俺そんなにゴリゴリしい!?ていうかゴリゴリしいって何?」

「ド○クエやりたがってたことに気付けなくて、すまねぇ近藤さん」

「やめてトシィイイ!!なんか俺がクラスによくいるなんとなく一人ぼっちの人ーみたいなことになってるけど、違うからね!」

「あげは、今度ド○クエ通信して遊ぼうぜ」

『ああじゃあ次の水曜日とかどう?』

総悟と打ち合わせをする私の脳天に鉄拳が落ちる。

――ゴスッ

『いってェー!なにすんのさ!』

「お前その日俺と見回りだろうが。逃げんな」

「当番表なら俺がつい昨日書き変えやした。その予定だとあげはと俺はずっと見回りなしでさァ」

『お、ラッキー!ありがとう十四郎』

「なにがラッキーだ、そりゃお前の予定だろうが!!つーか今書き変えたって言ったな!?」










ぎゃあぎゃあといつものやりとりをするそのはずれで近藤は、しくしく泣いていた。




「ねぇ君たちおじさんの話聞いてくれないかな」










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