宵の明星、魂は輝く
□女狐の走駆
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『もうほんとありえないっていうか、お前なんか肺が黒ずんだ挙句マヨネーズに対する味覚のみ消し去ってやろうかって思う!!』
鬼の副長サマに対する恨みつらみを二時間たっぷり語り、締めくくるようにバーンと精一杯主張した。
「――で、結局お前はここに何しに来たんだよ」
『え、初めての家出だけど』
「コラ、正直に言いなさい。同じ理由でお嬢さんが駆け込んできたのはこれで三十二回目だ」
『あだだだずがいがずがいが!』
額に青筋を浮かべながら私の額を容赦なしの握力で握りつぶさんとしている銀髪天然パーマの男、万事屋銀ちゃんの社長(?)坂田銀時は、攘夷時代からの幼馴染だ。
「すいません、今お茶しかなくて……」
台所から顔をのぞかせる眼鏡は、天パのもとで女中よろしく働いている志村新八。
「オイコラ眼鏡、そんなありきたりな台詞が通じると思うなヨ。確か煎餅があったはずネ」
「ついさっきお前が全部食べただろうが!!」
「知らないヨ!何でもかんでも濡れ衣着せればいいってもんじゃないネ!!」
そしてさっきから私の腕を掴んで離さないチャイナ服の女の子が、神楽。
『だって十四郎が悪いんだよ!私から油揚げを取り上げたんだから』
「仕事中に食ってたからだろうが!!」
『うっさいな、銀時だって甘いの食べられないだけで魂抜けるくせに』
「バッカちげーよあれはお前、俺のは特別なの!」
『私と何が違うってんのよこのくそ天パァ!』
「大いに違うもんね!天と地、月とすっぽん、苺パフェと油揚げだから」
『オイ苺パフェと油揚げってなんだよ。いい加減にしないとこの家で自慢の扇子見せびらかすぞ』
「アンタそれでも警察かアアアア!」
新八が元気よくツッコんだところで、
――ピーンポーン♪
『げ』
「おい、げって何だげって」
『十四郎だっ』
「あげは、こっちネ!!」
『え、のわあ!?』
神楽は私の腕を引っ張ると、
「ホアチャアアアア!!」
『――っっっ!!?』
身体を捻り、思いっきり私の体を投げつけた。
吹っ飛んだ先は神楽が寝床として利用している押入れだ。
――ガツンッ!!!
押入れの壁に頭を強打し、瞬時に受け身をとったはいいものの大分脳味噌が揺れた。
そこに神楽自身も飛び込んできて、押入れの戸を勢いよく閉める。
閉めるその瞬間、
――ぶわっさあっ
『……っ!』
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