宵の明星、魂は輝く

□女狐の走駆
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『ふんふんふん……』

私は鼻を動かしながら、屯所の廊下を歩いていた。
何故か?
極めて単純明快な理由だ。

『……なんで油揚げの匂いがしないんだろう』

腹の虫が暴れ出す夕時、いつもならこんがりといい匂いがするはずなのだが、今日に限ってそれがない。

『牛肉にジャガイモ、それと人参。夕飯は肉じゃがだな』

他のメニューは漂ってくるのに、私の欲している一品がちっとも出てこないのだ。

厨房に着いて中を覗くと、女中たちが忙しく動き回っていた。
なにせ男ばかりの食卓だ。量が並じゃない。

『ねぇ』

そのうちの一人を呼びとめる。
すると、女中は私の顔を見てサッと青ざめた。
一応言っておくが、私は彼女たちに恐れられるようなことは何一つしていない。

『え、何。どうしたの?』

ただその表情があまりにも悲愴なため、多少狼狽えてしまう。

「あげはさんっ、申し訳ありません!」

『へっ?』

「あの、油揚げなんですけど――」

ゴニョゴニョ。








































『嘘だアアアアアアアアア!!!』


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