宵の明星、魂は輝く
□女狐の走駆
1ページ/4ページ
『ふんふんふん……』
私は鼻を動かしながら、屯所の廊下を歩いていた。
何故か?
極めて単純明快な理由だ。
『……なんで油揚げの匂いがしないんだろう』
腹の虫が暴れ出す夕時、いつもならこんがりといい匂いがするはずなのだが、今日に限ってそれがない。
『牛肉にジャガイモ、それと人参。夕飯は肉じゃがだな』
他のメニューは漂ってくるのに、私の欲している一品がちっとも出てこないのだ。
厨房に着いて中を覗くと、女中たちが忙しく動き回っていた。
なにせ男ばかりの食卓だ。量が並じゃない。
『ねぇ』
そのうちの一人を呼びとめる。
すると、女中は私の顔を見てサッと青ざめた。
一応言っておくが、私は彼女たちに恐れられるようなことは何一つしていない。
『え、何。どうしたの?』
ただその表情があまりにも悲愴なため、多少狼狽えてしまう。
「あげはさんっ、申し訳ありません!」
『へっ?』
「あの、油揚げなんですけど――」
ゴニョゴニョ。
『嘘だアアアアアアアアア!!!』
.