宵の明星、蜂は飛ぶ

□夜想譚
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「ラグ・シーイング。十二歳、ヨダカ、コーザ・ベル出身。公式審査官五名、審査監視員二名による採点をもとに審議。
その結果、国家公務郵便配達員BEE≠ノ本採用とする」




きゅっと唇を噛み、いくらか緊張している様子のラグを横目で見つめ、クレンは帽子を持った手をモゾモゾと動かした。

人が緊張しているのを見ると、自分もつられてしまう。

ロイドが書類に落ちていた視線をラグへと向け、小さく微笑んだ。

「ヨダカ地方出身の本採用者はジギー・ペッパー以来だ。夢が叶ったな、少年……」

しかし、ラグは喜びを表情に出すことなく、しっかりとした口調でロイドの言葉を否定した。



「いいえ……僕の夢は……BEEになることじゃありません……。BEEになって……沢山の大切なこころ≠届けることが夢です。
どうしても会いたい人たちがいます!!
この世界のどこかにいる……ぼくの大切な人たち……!!」



アリアがはっとしてラグを見つめる。
クレンも同じだった。
顔には出さないが、心が大きく揺さぶられるのを感じた。


「ぼくの夢は……ゴーシュ・スエードが目指した最高のテガミバチに……ヘッド・ビー≠ノなることです!!!!」


涙をにじませながら、ラグは強く言い放つ。

――そうか。

クレンは瞑目した。

――この子が、ゴーシュが言っていた友達≠セったんだね。

何年か前の些細な会話だったけれど、クレンは一つ一つ覚えている。

人は恋だと冷やかすこともあったけれど、もっと確実で、それでいて相容れない。
クレンとゴーシュの関係は、むしろ兄妹に近いものだ。
アリアは、姉。

――ラグは、シルベットにはもう会ったのかな。



ぬるま湯のような温かさが胸に広がり、クレンは心地よさから閉じた目蓋を開けないでいた。







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