宵の明星、蜂は飛ぶ

□夜想譚
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――そんなわけないっ……!!!ゴーシュがBEEをやめるなんて!!



『――』

そう、やめるわけがない。
正確には、やめざるを得なくなってしまったのだ。
それは、行方不明になってしまったから。
死んだと囁かれることもありはしたが、クレンは信じなかった。
生きている気がしてならない。

これは、クレンの気のせいなのだろうか?


――ヒヒィインッ!!


警告音のようなノアのいななきに、クレンはハッと我に返る。
――そうだ、仕事中だった。
慌てて頭を振ると、輪っかになった金髪がペシペシと頬を叩く。

『ごめんノア。どうも本調子じゃないみたい』

そういって、黒馬の背によじ登る。
ノアは心配そうに鼻を鳴らしたが、主人が追求を望んでいないことを感じ取ると、ゆっくりと歩を進めた。



ヨダカの荒野をしばしば歩き、そこから外れたところに小さな町がある。
クレンは手紙の集荷も兼ねてそこへ足を運んだ。

『本当に人が住んでるの?ここ』

その疑問はもっともで、到着した町には人気というものが何一つ感じられなかった。
このルートは数年前に開かれたもので、地図も書き直されているし何度か別のテガミバチが来ているはずだ。
それなのにこの荒廃の仕方はどうなのだろうか。

首を傾げながらも、ノアの背中から降りたクレンは町の中へと足を踏み入れた。
数件の家が崩れ、瓦礫となっている。

『……ん?』

視界の端で何かがちらついたような気がして、立ち止まる。
半壊した家の中に、その姿はあった。

『子供?』

ぼろのような粗末な服に身を包んで膝を抱えていたのは、年端もいかぬ少年だった。
向こうも誰かがいることに気付いたのか、怯えたような目を向けてきた。
クレンは、警戒心を解くようにゆっくりと近づいた。

『ねえ君、どうしたの?』

「……」

『この町で一体、何があったの?お父さんとお母さんは?』

「――っ」

人の姿を見て安心したのか、少年は何かが決壊したかのように大粒の涙を溢れさせた。

「おっ、お姉さん……っ。助けてよう!!」

『何があったの?』

「あいつがっあいつがぁあ!!」

『お、落ち着いて。ね?』

泣きじゃくる少年の細い肩に触れようとしたとき、突如として地面が揺れた。
横ではなく、下から突き上げるような揺れだ。

『なっ……!?』

とっさに少年を抱え込むと、揺れで崩れそうになっていた家から飛び出した。
少年の喉が引き攣ったような音を出す。

「あいつだ!あいつが来た……!!」

『あいつ?』

より一層怯える少年に戸惑った刹那、クレンの背後で地面がひび割れた。
地鳴りが激しくなり、ひび割れた箇所から地面がはじけ飛んだ。

――ッドォオオオオオンッッ!!

『わっ』

大粒の破片が降ってくるのを、ノアがクレンを背中に押し上げて軽やかに避ける。
現れたのは、頑丈な甲殻をもつ「こころ」なき生き物。





『――鎧虫!』


――ギイイイイイ!!




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