宵の明星、蜂は飛ぶ

□夜想譚
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ユウサリ西部ラズベリー・ヒル。

柔らかいラズベリー色の土は足場が不安定なため、戦闘には不向きだ。
その上、鎧虫ポイントである丘は避けては通れない。

その丘の近くを、二頭立ての馬車がガタゴトと進んでいた。

 ――……。

その様子を少し離れた岩場でじっと眺めていたヴァシュカは、主人に仕事の時間になったことを伝えるために軽やかに踵を返した。









――ゴギャア、

「んーヴァシュカ……何?もー仕事?」

『……だってさ、ノア』

クレンは、横に伏せる相棒の黒馬のたてがみに顔をうずめる。

「ちぇ、めんどくせー……!」

『まあまあ、新人君が誕生するかもしれないんだよ?楽しみじゃない』

「っかー、気楽でいいよなアンタは!」

『そうかなー?――あ、』

ぴんと跳ね起きて身を乗り出すクレンに、ザジは訝しげに眉根を寄せた。

「どうした?」

クレンの横顔が歓喜にきらめく。
――と、低い低い地鳴りが足の下から響いてきた。
丘の柔らかい土が水のような音を立てて歪み始める。


次の瞬間、赤い土が激しくうねり、鎧虫を吐き出した。


ムカデのような形態の鎧虫は、土を巻き上げながらその巨体をそそり立たせる。

――グギギ、パキン。


「鎧虫、グレン・キース!」

『……の、おしりだねっ!』




「ちぇっ、審査・監視員なんて、ほんとめんどくせえ……」

『見てノア!久し振りにおっきいよ!!』

はしゃぐクレンは放っておいて、ザジはヴァシュカに声を飛ばした。

「死なないようにちゃんと見張ってろよ!ヴァシュカ!」

――ゴニャニャ、ニャ

長いひげをひくひくと動かし、ヴァシュカは言われたとおりにじーっと受験者を見つめた。

その隣で、ノアも鼻を鳴らす。




「うわああァああッ!!!」

恐れの入り混じった叫び声をあげて、マッケイ・ジーは精霊琥珀が象嵌された猟銃を構える。
しかし、引き金は虚しく音を重ねるだけで、込められた「こころ」を放つ気配は一向にない。

必死に相棒の名を呼ぶ彼を、ザジは苦い表情で見下ろした。

「ディンゴならとっくに逃げちまったよ。これだから下位受験者は見ていられねえや……」

『レジア君のほうが賢いや!』

――ドォオンッ

何が楽しいのかその場でくるくると回り始めたクレンの頭上を、銃声を纏った赤い心弾が駆け抜けてゆく。
心弾はグレン・キースの胴体に当たり、星屑を放って砕け散った。

「しっ……心弾!?これは……」



「もっと鎧虫の傍で撃たなくちゃ!!行こう!!ニッチ!!」





『ああっ、ラグ・シーイング少年!』








「すみません!!どいて……下さーーい!!!」



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