宵の明星、蜂は飛ぶ
□夜想譚
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『ほくほくジャガイモ バターをたっぷり! あっちあっちと頬張ればーァ とろりと広がる農家のお味♪』
「こら小娘!黙らんか!!」
『あ、ごめん。暇なモンでつい……』
縄で体を縛られ、身動きが取れない状況にストレスゲージがオーバーしたのか、
クレンが聞いたことのない曲を歌いだした。
気を失ったふりをしているコナーは、クレンの行動にハラハラさせられながら、
なんとか情報を手に入れようと神経を尖らせる。
その間にも、止まないクレンの奇行に苛立った見張り共が、彼女の頭のすぐ脇に蹴りを打ち込んだ。
『……』
すっと口を閉じて白い目で見上げられ、男は一歩、後ずさる。
「そ、そう。それでいいんだ!捕らわれの身が、生意気なことすんじゃねえ!!」
それよりも、とクレンから離れた男は、ハニー・ウォーターのせいでピクリとも動かないニッチに近寄ると、
鍋掴みのような袖の部分を外した。
瞬間、そこにあったものに目を丸くし、大声で騒ぎたてる。
「サ……サラ様……サラ様!!」
騒ぎを聞きつけ、演説をしていた女と獣の爪をもつ例の大男が講堂にやってきた。
「どうした」
「こ……この子供の腕に……!!
まるでその……」
「!!」
「ハント様のような……爪が……!!」
「……貴方たちは下がっていなさい」
一度沈黙した女――サラは、男たちに下がるよう命じた。
「は……はい!」
彼らが部屋を出ていくのを見届けることなく、サラは口端を歪めて――
「……ふ……」
笑ったのだった。
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