バハムート ラグーン
□Episode:0+1 放浪
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「店主さん。シェイカーとバースプーンをくださる?」
必要器具の内、2品目を包むように指示し、カスティリアは店主に代金を差し出した。
「毎度。」
店主は二カッと愛想よく笑うと金を受け取り、総金属製のシェイカーと長めのバースプーンを包む。
その様子を眺めながら、カスティリアは厨房係を振り向かずに、やや小声で返答した。
「いいえ、城下には行くべきではないわ。グランベロス軍の兵士がうようよしているでしょうし。」
つられて厨房係も声のトーンを落とす。
「カスティリアなら一人で全滅させられるんじゃないか?」
「戦士としては賞賛の言葉ね。でも、さすがに一個師団は無理よ。」
「一騎打ちなら?」
「勝利条件はゾンベルドの撃破?ふふ、試してみたいわね。―――あぁ、ありがとう。」
簡単であるが、丁寧に包まれた購入品を差し出され、カスティリアは店主へ笑顔と礼を述べた。
その笑みを受け、俄かに浮上した店主が、調子づく。
「ネェちゃん、ここいらじゃ新顔だな。
差し詰めコレと一緒に移住でもしてきたのか?」
ピッと小指を立て、カスティリアと厨房係に交互に見せた。
「いっ?!」
赤面と驚きの声を上げたのは厨房係だ。
店主は彼らを恋人か連れ合いだと思ったらしい。
厨房係はすぐさま開口した。
「違…っ」
「ええ、そうよ。」
「カスティリア?!」
「面倒臭いわね。いいのよ、こういう時は肯定しておけば。」
ジロリと厨房係を睨み、彼を制止する。
店主はそのやり取りに見向きもせず、うんうんと誇らしげに首肯した。
「そうか、そうか。
にいちゃん良いなぁ、こんな別嬪さん嫁に貰えて。」
「え゛?!」
「ふふ、でしょ?!お似合いってよく言われるの。」
「!!」
カスティリアはするりとごく自然な仕草で厨房係の腕を取った。
途端に密着した女の肢体に、厨房係は全身を硬直させて瞠目する。
「って言うと、もしかしてあんたらも戦火で家を焼かれたクチか?」
「…え?」