星矢(Maine novel)
□First Ignition
55ページ/56ページ
横着な態度だ。
だが、それが魅惑の女の仕草となると、飼い猫に頬ずりをされた様に愛おしい。
「勤務中の女の懐柔は好ましくないからな。」
「は?懐柔?」
「これで心置きなくお前を口説ける。」
「!!」
言うが否や、俺は女のこめかみに唇を寄せた。
「見れば見る程良い女だ。」
「!!!!!」
俺の腕の中で、女の身体が硬直した。
これ幸いと、俺は女の黒髪に鼻を摺り寄せる。
「良い匂いだ。」
「ぎゃぁ!ちょっ、匂いを嗅がないでください!」
「噛みつきたいほどの甘い香りがする。」
「げっ!噛みつかないでくださいよ!」
「此処ではな。」
「はぁ?!」
「―――やはり、女は良い。」
「………うわぁぁぁぁぁぁぁ、それ、女性全般って意味ですね?
どれだけの女性の香りを嗅いだんだか…。なかなか最低ですね。」
「ふ。先ほどユイにも最低と言われた。」
「侮辱されて“ふ”とか、格好つけないでください。」
「…今すぐ抱いてしまいたい。」
「ひぃぃぃゃぁぁぁぁぁぁ…っっっ!」
更に女のウエストを締め上げると、女はブルブルブルと全身で身震いした。
「うぎぎぎぎぎぎ…っ」と、俺の腕の中で仕切りに細腕を動かし、何とかして俺の呪縛から逃れようと抗い始める。
「あ、あの!」
「何だ。」
「腕を放して頂きたいんですけど!」
「断る。」
「息が吸えません!呼吸!胸が苦しいです!」
「胸が?
心配するな。俺の芳香に胸が高鳴っているにすぎない。」
「呆れるほどの自信家ですね……違いますよ!」
女は顔を呆けさせ、はっきり否定を口にした。
「揶揄っただけだったのだが…そうはっきり言われると、俺のプライドが傷つく。」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ…。それは、すみません。」
またしても小さい“ぇ”の集まり。
鍛え上げたこの胸板で、且つこの屈強な上腕で、ここまで肢体を締め上げられて尚、これだけの抵抗を見せるとは。
新鮮だ。
逆にそそられる。
「まぁ、良いだろう。少し緩めてやる。」
少しだけ腕の力を弱めてやる。