星矢(Maine novel)

□First Ignition
49ページ/56ページ



「あら、そうなんですか、ユイちゃん。」

「うん!ユイね、どーこすき。
でもね、(シー)―――…じゃなくて、かのんのほうがもっとすき。




俺も呼び捨てか。


女児は女の足元をぱっと離れると、両腕を飛行機の様に広げ、女の周囲をトンボが飛ぶように旋回し始めた。

「うふふ、えへっ!」とニカニカ子供らしい満面の笑みを浮かべて走り回る。



「あらあらユイちゃん、危ないですよ。」

「あのね、美子せんせい。ユイね」


女が女児を止めようとして、女児の肩に手をかけた。

旋回を停止させられた女児は、太陽の如く煌めいた笑顔を女へ手向け、元気いっぱいに口を開いた。





「あ?」

「………あ―――…」

「? 何です?ユイちゃん。」

「…じゃなくってね、

「さ?」

「………さ――…」

「?」


“あ”と言った後、“さ”と言い換えた女児は、継続される言葉を発さず、次第に声はフェードアウトしていった。

同じくして、天真の笑みも消えかけの提灯のように鎮火していく。


「…ううん、なんでもないの。」


そう言って、最後に女児は小さな頭を左右に振った。


“あ”と“さ”?

この流れからするならば、女神の“あ”と沙織の“さ”であろうが、まさかな。

女児に言い淀む理由が見つからない。



「ユイちゃん?」


女は不思議そうに女児の顔を覗き込んだ。その所作に長い髪が邪魔だったのだろう、流麗な黒髪を片手で耳に掛ける。


………。


まぁ…なんだ、好みの違いもあるだろうが。

その仕草に目が行く俺は別に変態ではないと思う。



「ね、美子せんせい!」

「はい?」

かのん、かっこいいよね!

え?!

なっ?!



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ