星矢(Maine novel)
□First Ignition
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「…………またか。」
女と女児は再び両者の身体を結び付けた。
先ほどにに増して熱い熱〜い抱擁だ。
「はぁ…。おい、保護者。」
俺は盛大な溜息を吐き、黒髪の女を呼んだ。
「……。」
女は女児をぎゅっと抱きしめて可愛がり、こちらを振り向きもしない。
「…無視か。ならばクソガキ。」
「ユイちゃんはクソガキではありません!」
「ユイはクソガキじゃないもん!ユイだもん!」
保護者と被保護者は計ったようなタイミングで俺に食らいついた。
息ぴったりだな。
「クソガ…ではなく、ユイ。
お前の保護者が迎えに来たのならば、俺はお役御免だな。」
「えっ。」
俺の言葉に、女児は小さく一驚した。
元よりその約束だったはずだ。
保育所の先生だが何だか知らないが、女児の保護者に無事に女児を引き渡せたらば、今日の俺を縛るものは無い。
まさかこんなに早く保護者が現れるとは思っていなかったが、せっかく湧いて出た空き時間だ。
用が済んだのならば、さっさと暇してしまいたかった。
「え。保護者が迎えって…カミソリのお兄さん。」
「カミソリは余計だ。」
「もしかして貴方がユイちゃんを保護してくださった方ですか?」
「…聞いていないな。」
女児に続くように、女は目をぱちくりとさせていた。
「もしかして、ではない。そうだ。」
「!」
はっきり肯定すると、女は長い睫毛を瞬かせて口をポカンと開けた。
直後、ざっと音が立つかの様に素早く立ち上がる。
ささっと身支度を整え、俺に勢いよく頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!私、てっきり」
「“てっきり”?」
「幼女つけ狙う変態カミソリ殺人鬼かと」
「さ?!」
殺人鬼?!!
しかもまたしても変態扱いか!
……今日という日は何なのだ。
12の至宝に名を連ね、多くの憧憬と羨望を集める俺が、このような侮蔑を何故受けねばならない。
俺の行動はそんなにも浅はかなのか?!