星矢(Maine novel)
□First Ignition
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俺は主の質問の回答を述べる。
「気が付いたら?」
「はい。」
女神はキョトンとされて俺を見上げた。
「貴方の膝に?」
「ええ。」
「貴方が膝にユイちゃんを乗せたのではなくて?」
「乗られていたのです。」
「…さては居眠りをしていましたね?」
「滅相もございません。御身の傍らでそのような怠惰を踏めるほど、私は蛮勇ではありませんので。」
「では―――何か、思慮に耽る案件でも?」
「そうであれば面目もございましょうが、何分、思案に暮れていたわけでもございませんし、ご報告申し上げる事案もございません。」
「………。」
「……なので申し上げにくいと…」
女神の追及に、俺の声が段々と小さくなる。
女神はピンクのルージュを引いた形の良い唇をポカンと開けて、俺を見ていた。
主人の呆気は俺を焦燥させる。
「も、申し訳ありません…。」
特に謝罪を申し上げる理由も無いのであるが、女神を信奉せし軍士が一人が、3歳の幼女の気配にも気が付かなかったとなると、かなり問題が生じてくる。
12の頭角の一人の地位すら危ぶまれる程の大問題だ。
申し開きもない代わりに、謝罪を述べるのが精いっぱいの誠意だった。
「………少し、疲れているのではありませんか?」
「!」
女神はお美しい相貌を曇らせて俺を望まれる。
な、なんとお優しい!我が主よ!
ふざけるな、呆けているんじゃねぇ、しっかりしろ、このタコスケ!ぐらい冷罵なさるのではないかと覚悟をしたが、主の懐の深さこの上なし。
女児に気が付かず、間合いを詰められたのは俺の不徳であるのに、それを責めるどころかお心遣いをいただくとは…!
このカノン、一生御身に尽くして参ります!!
「これ、カノンよ。
この様な場所でそうそうそれを燃やすではない。暑苦しくて敵わん。」
「老師!」
半径5メートルの眼力の結界を諸戸もせず、敬意と推尊の先覚者は、俺と女神の会話に割って入ってきた。
言わずもがな、女児も一緒だ。
「童虎、いかがでしたか?」