星矢(Maine novel)

□First Ignition
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女児の脈絡不明で唐突な発言に、女と俺は面を食らう。

俺が格好良いのは当然で当たり前で目にも鮮やかだ。

3歳の女児が突拍子もなく格好良いと豪語してしまうほど、俺の美貌はであるとも思う。


しかしながら、この会話の流れで何故その言葉が飛び出すのだ。

見てみろ。

突拍子のないその台詞に、問い掛けを受けた女も困惑の表情を浮かべている。



「え、えっと、ユイちゃん?急にどうしたのです?」

「かのん、かっこいいでしょ!」

え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…


おい女。

なんだ、その小さい“ぇ”の集まりは。

そこはきっぱり同意を寄越すところだろう。


女が頬を引きつらせて返答あぐねていると、女児は鞠程度の大きさの頭を小さく傾げた。



「…かっこよくない?美子せんせい、こういうのすきじゃない?

「え、す…っ?!

「きらい?」

「きら…っ?!」


この俺を嫌うなどと断じて許さん。

加えて“こういうの”とか言うな。



「あ、分かりましたよ?
ユイちゃんはこのお兄さんみたいな男性がタイプなのですね?」


好きも嫌いも格好良いも、女児の問い掛けには何一つ返事をせずに、女が切り返す。

女児は「ん〜」と首を捻り、ちらりと俺を見た。


「ユイ、かのんすき。」


ふ。流石、ギリシア彫刻に引けを取らないこの俺の美…


「でもおつきあいはしないかな。


く、クソガキが…!



「ね、ね、美子せんせい。かのんきらい?いや?きょうみがない?

「え、えっと…ど、どうしましょう。答えにくいですね。」


女、貴様もだ。


答えにくいなどと、俺に興味がないと言っているようなものではないか。



「むぅぅぅ、やっぱりどーこのほうがよかったかな…。」


女の表情と返事を受け、良い返答を得られないと知ると、女児はあからさまに肩を落とした。


貴様、俺と老師を比較していやがったのか。


女神の側近としてならば、比較せずとも明朗だ。

俺たちの先覚者であり、人格的にも誰よりも貴んだお方だ。


だが、女から見た男としての魅力となれば話が違ってくる。

男としての魅力を問われれば、老師のみならず、この世の男という男に俺は負ける気はしない。



「ユイちゃん。」


不意に、女が真面目な声で女児を呼んだ。  



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