星矢(Maine novel)
□First Ignition
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「首っ?!」
「美っ?!」
俺の台詞と同時に発せられた女の台詞に、俺は顎をがくんと落とした。
首を絞める、だと?
………
…………
……………“その細い首根っこをこの手で”
「あぁ、確かにそんなようなことを言ったな。だが、本当に首を締めようなどとは」
「いいえ!貴方の鮮やかな青緑のその瞳が、まるでカミソリのようにユイちゃんの可憐な首筋に刃をあてていました!あれはもう、犯行に及ぶ一歩手前です!」
「俺の眼力が鋭いのは認めよう。だが、実際にこんな幼子を絞め殺すわけがあるまい。少し脅してやろうと思っただけだ。」
「お、脅すですって?」
そうだ。
この女児は女神を冒涜した。
女神の超絶な美貌を、そんじゃそこらのちょっと綺麗かもしれない馬の骨と比較した挙句、同格どころか馬の骨の方が上だと言い切ったのだからな。
女神至上たる俺たちには聞き捨てならない戯言だ。
しかし、なんだ。
戯言と思って苛立ってはみたものの、この女―――
「脅すなんてとんでもありません!ユイちゃんは3歳の子供なんですよ?」
女は矢じりの如く黒光りした瞳で俺を見上げる。
背後に隠した女児の頭を後ろ手でポンと撫で、「こんなに小さい子になんという恐怖を…」と、眉を寄せて悲愴な面持ちを表した。
「せんせい。ユイ、ぜんぜんこわくなかったよ?」
女の長いスカートの影から、女児がひょこっと顔を出し、黒い目をくりくりさせて俺を見た。
台詞を裏付けるかの如く、その声音は飄々とし、恐怖も悲愴も微塵も感じ得ない。
その様子が頗る可愛くない。
っっっっとにこのクソガキは…っ!!
「ユイちゃん…なんて強い子なんでしょう。
先生を心配させないように虚勢を張っているのですね。」
おい、このクソガキの振る舞いのどこをどう見たら虚勢を張っているように見えるのだ。
大体、そんな難しい言葉、この女児に理解―――
「ううん。ユイ、つよがってなんていないよ。」
―――が出来てしまうのだろうな。
なんだ、本当にこのガキ。
「あぁ、ユイちゃん!強い子!」
「美子せんせい!」
ひしっ!!