星矢(Maine novel)

□First Ignition
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とても幼い身体から発せられたとは思えない、大気を(つんざ)くような悲鳴を女児が上げた。

紅葉の両手でブローチを守る様に覆い隠す。


「貴様…!!」


女神を拒絶するとは見上げた根性だな。

俺の腹に煮えたぎるような怒りが沸く。


「やめんか、カノン。
お主、女神に関しては殊更沸点が低いのぅ。」


ため息混じりにそう言って、老師は俺を批判された。

失笑を俺へとくれた後、女児を見下ろす。


東洋人にしては大きめの砥草色の瞳を曲げて、女児の頭をポンポンと手のひらで撫でた。


「女神ではなく儂であろうと拒絶したであろう。
のうユイよ。お主にとってそれは宝物なのじゃろう?」


近くに覘いた同じアジア系の顔つきに、女児は目をパチパチとさせる。

老師に問いにコクンと小さく頷くと、消え入りそうな声で何かを呟いた。


このひともごうかくかも…。



しかし疑問だ。

女神と老師が触れてはならないブローチに、何故俺が触れられたのだ。

そのせいで俺は女神からお叱りを受ける羽目になってしまったというのに。




「そうだったのですか。
大切なものとは露知らず、勝手に触れようとしてごめんなさい。…許して下さる?」


女神はご自身への拒絶を気にも留めぬ様子で、女児へと笑いかけた。

全く、どこまでも出来たお方だ。


女児は大きく(かぶり)を振り、唇を内側に巻いて結び「うん。」と返事をする。

そして、短い両腕を伸ばして女神の華奢な首に纏わりつく。

まるで猫のように、頬を女神の耳元とに擦り付けた。


「!!!」


一切の前置きもない主への無作法な振る舞いに、再び俺の(はらわた)が沸々と(あぶく)を出し始める。



幼児(クソガキ)!いい加減に」

あてな、かわいい。

!!

「あてな、すき。」

え?

「あてな、あてな。」


………女神、すき?

すきとは、この“好き”か?


拒絶しておいて好きだと言っているのか?



「ま、まぁ…ユイちゃん、初対面ですのに、わ、わたくしを好きだなんて」


女神は突然の告白に戸惑っておいでのようだ。

とは言いつつも、しどろもどろと吐露されるお顔は照れくさそうに色付いていらっしゃる。

満更でもないのだろう。 



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