星矢(Maine novel)

□First Ignition
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しかも、俺のせいで…!!


「申し訳ありません、女神!」


俺はソファから腰を上げ、その場に崩れた。

両腕を床につき、頭突きさながらに顔面を突っ伏す。


「仰せの通り、女児婦女子関係なく、女性としての矜恃を持つのは当然の権利…!」


何ということだ。

こんな当たり前のことを女神に叱咤されるとは。

いいや、こんな当たり前の事を女神に叱咤させてしまうとは…!!


己への叱責で腕が震える。



「それに気づかず、少女の自尊心を踏みにじったのはこの私でございます!」


俺の失態で高貴なるこの方が陳謝なさるなど、あってはならない。

俺の罪をご自身の罪と言って詫びいる主人の優しさに、絶対に甘えてはならない。


「どうか私の罪を御身で被るのはおやめ下さい。私の罪は私の罪…!
このカノンに、謝罪の機会を今一度お与えください!!」


最後にもう一度、額を床にめり込ませた。

ピシッと、大理石の床が鋭い音を立てる。



今度は恐怖で肩が震えだした。

慧敏な女神に、土下座などと見え透いた謝罪は受け入れて頂けないかもしれない。

姦邪とまで言われたのだ。

もう、顔も見たくないと言われていてしまうのではないか。


この方の愛を失うのではないか、その嫌疑が俺を弱くする。



「カノン…。」


そっと、俺の肩に温盛が下りた。

小刻みに揺れるそれを宥めるように、女神の白い手が俺に触れている。


「よくぞ言ってくれました。貴方ならば分かってくださると信じていましたよ。」


女神のお声がお優しい。

耳に届いたその声音に、突っ伏したままの顔面で、俺は目を見張る。


「顔をお上げなさい。その真心を少女に伝えるのです。」


そう言って、女神は少女を抱えたまま、腰を低く落とされた。

俺はゆっくりと顔を上げ、少女の顔を覗き込む。

少女は俺を見ていない。女神の横顔をじっと食い入るように見ている。


そうだろう。

こんなに秀麗な女性は二人といない。

見惚れるのも納得だ。


少女の視線が得られぬままに、俺は謝辞を口にした。



「すまなかった。
ペッタンコとはいえ、女性の胸部に触れてしまった。大きさなど関係なく、男が無暗やたらと触れていいところではなかった。不可抗力ではあったが―――許される行為ではない。本当にすまない。」

「え、不可抗力だったのですか?」


珊瑚の瞳を丸くして、女神が俺を見た。 



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