星矢(Maine novel)
□First Ignition
31ページ/56ページ
俺は手元を振り返った。
この掌の中に、あるはずの感覚。
待て、待て、待て、待て。
情報が一致しない。
俺は今、頗る混乱している。
男にとって憧れのロマンであり、神秘であり、否応なしにその魅力に侵食され、時にその煩悩に苦悩さえ覚える抗い難し女の双丘。
さっきのあれは完璧だった。
俺が描く理想に寸分違わずマッチングしたパーフェクトな丘だった。
俺は確かにこの手でそれを弄った。
それが、それが…!
つるペタだと?!!!
さっきまで手中で溢れていた男のロマンは、いずこかへ消えていた。
ギュッと手に力を送ると、無くなった胸の質量分、硬質なイルカのブローチが俺の手のひらに突き刺さる。
熱を持っていたイルカは温度を失っていた。
「なっ、無い…っ!」
俺は顔を上げた。
抜群のプロポーションを見せつけた婀娜な女を見やる。
ぶつかった視線の先には、焦茶の髪に白磁の美人――――ではなく、蒙古肌ののっぺらぼうな小童がいた。
真っ黒な瞳をにんまりと細め、先刻にも聞いた台詞を口にする。
「ユイ、3つ。」
「幼児!
さっきのセックス・アピール美女をどこへやった?!」
「カノン、貴方にはスニオン岬からす巻きで三日三晩干されて頂きましょう。」
俺が幼女へ罵声を浴びせせると、間髪入れずに女神は俺へと満面の笑みを傾けた。
「……すま」
き?
今、花の唇に似つかわしくない、とんでもなく過激な発言をされなかったか…?
「女神よ、す巻きなどと、どちらで覚えられておいでじゃ?」
「シティ●ハンターという漫画です。
節操のない男性は100tのハンマーで打ち付けるか、す巻きにしてビルの屋上から吊るすと教わりました。」
「おお、懐かしゅうございますな。
確か、こんぺいとうなる鉛球も使用していたようですか…。」
「100tハンマーもこんぺいとうも出せないわけではありませんが、す巻きなら皆さんへの見せしめになりましょう。」
女神よ、それは間違った教本です。
某少年誌連載同時期ゆえに、タイトルを耳にすれば同期なりの笑みも生まれましょうが、それは断じて正解とは言えぬ懲罰にございます。
「…いつまでそうしているですか。」
女神は微笑みを称えたまま、俺の傍らに寄られた。