星矢(Maine novel)
□Stage METIS 2
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大自然の雄大な幻想は、自分をちっぽけな存在だと思わせた。
広大な地球の上、日の出の素晴らしさは何処にいても変わらないのであろう。
国、人、土地、文化も文明も違えど、昇る太陽は全て同じ。
そして、この薄紫の世界もきっと同じなのだ。
息を殺して東を見据える。
白く澄んでいた空はやがてその相貌を変え始めた。
呼吸を数える程ゆっくりとした速度で、見事な朱色を映し出す。
全身を朱に照らすほどの強烈な光を感じた刹那、世界は薄紫より情熱の赤へと一転した。
太陽を中心に何もかもが真っ赤だ。
空も、大地も、おそらく気流も。
「綺麗…。」
そう漏らさずにはいられない光景に、ただただ魅入る。
剥き出しの足先と手先に、穏やかなぬくもりを感じた。
暑さも寒さも感じないこの空間で、体が熱を覚え始めるのは、絵空事ではない実際の太陽が、人肌を焼くほどに熱いと知っているからだろう。
「こんな素敵な景色、独り占めなんて本当に勿体ないわ。」
新年、霊峰の頂上で大勢の人々と共に見つめる景色、それ相応の代物だ。
それを寒暖皆無でたった一人。
贅沢の極みだ。
「……―――誰か!」
と叫んでみる。
けれど、一人ぼっちだ。
「……快く現れてくれる友人はいないのですか、私には。」
自分で言って空しくなった。
折角なのだから、誰かとこの美しさを共存したい。
そうは思っても、夢で起きる出来事の操作など不可能である。
「まぁ…いいです、結局大方忘れてしまうのでしょうし…。」
夢で見た全てを、目覚めた後に覚えているなど不可能だ。
せめてほんの少しの場面、ほんの少しの一コマ。
朝露の如く少しでもいいから、この景色を目に焼き付けたい。
そんな事を思っていた。
「綺麗だろう?」
「ええ、本当に…。」
「此処からは、毎日この光景が拝めるんだ。」
「それは贅沢ですね。羨ましい…。」
「雨とて、とても美しい。眼下は雲で埋め尽くされるからね。」
「雨の日の飛行機みたいな?」
「あぁ、分厚い雲は太陽の光をよく弾く。」
「当然でしょうけど、もしかして日没も拝めたりするのでしょうか?」
「そうだね、とっても美しいよ。」
「わぁ、見てみたいです。」
「日没はもっと多彩な朱が楽しめる。
闇に覆われていくような―――あぁ、でも貴女には朝焼けの方が似合うな。」
「“朝焼けの方が似合う”だなんて、やだ、恥ずかしい―――…って、え?」
彼は予告なく現れた。