星矢(Maine novel)

□Stage METIS 1
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うな垂れるアイオロスへ、女性は声をかけた。


「え?」


アイオロスは面を上げて女性を見る。

女性はアイオロスと自身の間、閃光の舞降りた先を見つめていた。



あったわ。

「…あった?」


アイオロスは彼女の視線の先を仰いだ。

床にめり込むようにして、手のひらほどの小さな何かがギラリと鋭く光っている。

何であろうと目を窄めて物体の正体を貪るが、途中で罪の意識に苛まれ、アイオロスは再び顔を伏せた。


怒りと共に撃ち落された何かなど、己に対するギロチンの刃かもしれない。

くっと、アイオロスは鈍く唇を噛む。



一方で、アイオロスの苦々しい思いなど知る由もなく、女性は躍るような足取りで光る何かに近寄った。

ひょいっと、ワイングラスをあおる様に、繊細な指使いでそれを拾い上げる。


ふふ、何度見てもきれいね。


どこか懐かしみを滲ませた瞳でそれを見つめた。



ねぇ、ロス。これを見て。」

「………。」


見て、と言われても、心情的に思うように顔を上げられない。

まして、愚を犯した直後だ。

早々に相分かったと女性を直視できるはずもなかった。


もう、ロスってば、聞いているの?
これよ、これを探していたのよ。



煮えをきらして、女性からアイオロスへと近づいてくる。

伏せたままの彼の視線の先にずいっと何かを押し出した。



「これは…―――」


アイオロスは瞠目した。

その反応に、女性も「ね?」と優しく微笑する。


「これは、どうして此処に?そもそも何故…っ」


“これ”には見覚えがあった。


無いはずがない。

女神の次に大切な物の欠片だ。



金の羽。貴方(サジタリアス)の羽よ。



そう。

見紛うことない、己の聖衣の羽。



まだ、あの子も生まれていなくて、聖衣も無かったはずの時代。アイオロスの枕元に飛んできた羽。

「……。」


思い出を手繰るように、女性は羽を愛おし気に見つめる。


アイオロスが私にプレゼントしてくれたの。


親指と人差し指で羽を抓み、クルクル回して弄んだ。


折角貰ったのに、どこかに消えちゃって。
あ、失くしたわけではないのよ。あくまで消えたのよ、忽然と。



そしてアイオロスの前に立ち直し、柔和に微笑んだ。


…未来の持ち主である貴方のために、時の条理を超えて飛んできたのかもしれないわ。


すっと、アイオロスに羽を差し出す。



これが貴方を地上へ戻す道標よ。

「私の……地上への道標?」

ええ、そうよ。

「………。」


ごくりと、アイオロスは生唾を飲み干した。


そろりと腕を伸ばして、金色に光る己の聖衣の欠片に手をかざす。

すると羽は、主人の手を待っていたかのように、鋭い輝きを弱めた。

ボワンと控えめに、蝋燭の炎の様に瞬いている。



「さっきの閃光…、雷でも落ちたのかと思ったよ。」


アイオロスが苦笑して言う。

その言葉に、彼女は「へ?」と面をくらい、彼を見る。

アイオロスが「あの方の。」と言って肩を竦めると、女性は直後にコロコロと笑い出した。


雷霆の雷かしら?ふふ、貴方にそんな事はしないわ。」 



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