星矢(Maine novel)

□Stage METIS 1
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痛みは全くない。

それどころか見事に癒され、清々しい程の明瞭な視野を誇っていた。


「すごいな。…貴女の小宇宙かい?」


驚きを隠しきれずにアイオロスが聞くと、女性は照れたように「ふふ。」と笑った。



一応ね。管轄が違うから、得意ではないけれど。

「謙遜だよ、見事なものだ。」


アイオロスは称揚する。

すると女性は左手の人差し指をピンっと立て、チッチッチと左右に振った。


目薬とか作らせたら、もっといい働きをするわよ?


ウィンクしてアイオロスを見上げる。



「ははは!違いないね。
じゃ、次の機会にでもお願いしようかな。」

ええ、是非。
その時はうぅ〜んと効く目薬を作ってあげるから!



女性の笑顔が水々しく弾ける。


アイオロスはその眩さに目をすぼめた。

女性は完璧なる美女であるが、それを嵩に懸かるわけではなく、愛嬌豊かでよく笑う。

高貴な身の上を感じさせない愛らしさが、他人の心を掴んでいくのだろうか。




あっと…あまりゆっくりもしていられないのだったわ。ロス、ついて来て?


治療が完了すると、女性は本題を再開した。

すっかり埃の舞立も収まった扉を潜って、屋敷の中に入って行く。


屋敷の中は鬱蒼として、廃れた建物の匂いと、土と埃の入り混じった咽返る瘴気とを充満せいていた。

大理石と思われる廊下も、表面に砂塵を積もらせて、歩けばジャリジャリと音を発した。

城壁や扉の朽ち方からしてみても、かなりの時間の経過を匂わせる。



「ひどい有様だな…。どれくらい前の建物なんだい?」


アイオロスは自分の斜め前を歩く女性に問いた。


神話の時代からよ。


女性は振り向きもせず、サラリと答えた。



「棄てられた時代も?」

ええ。

「棄てられて尚、空に浮いているのは」

神の小宇宙の作用ね。

「神の…小宇宙。それは、やはり―――」

ご明察。あの方よ。


彼女は肩越しにアイオロスを見やり、クスリと微笑む。


あまり賢いのも考えものよ?

「………。」 



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