星矢(Maine novel)

□Stage METIS 1
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奇跡の女性。


本当ならば此処にいる筈のない女性。


輪廻に消え入り、来世に赴くだけだった自分を、呼び止めてくれた女性(ひと)


傍にいると、助けてくれると言ってくれた貴女。


可愛くて、可愛すぎて――――。





頭の中が真っ白になった。

眼前の女性は無防備に自分に面を晒している。

ねぇ、まだとれない?」と問う催促の声も、彼の耳には届かない。



―――せめて、僅かな抱擁をお許しください。



果てなき者へ向かい、謝罪を述べた。


女性の頬に添えた手を、彼女の背に回す。


え?ロス?


女性の一言が聞こえた。


驚かないで、腕の間から逃げないで。


切に唱える。


胸の苦しさに耐える様に、眉を歪めて彼女の耳元に顔を埋めた。


……どうしたの?ロス。


状況を把握した彼女が、彼の背中に自身の手を当てがった。


拒絶されない事が純粋に嬉しい。

自分の中でグルグルと蜷局を巻く複雑な思いをぶちまける様に、アイオロスは彼女の耳朶にキスを落した。


感極まって、彼女の名を呼ぶ。



メティス…!



その時だった。


二人の間を劈く様に、強烈な輝きを放つ閃光が彼らの元に降り注いだ。



「!」

きゃあ!


反射的に二人は体を離す。



「……。」

……。


一瞬の出来事で、何が起きたのか理解ができなかった。



は、はは…っ


アイオロスは頭を抱えた。


謝罪は受け入れられなかったらしい。

己の素行が、不興を買ったのだろう。


尤もな怒りだ。

立場をさかさまにしてみれば一目瞭然。

この買い物は愚そのものであり、釣りとして身を撃たれても文句は言えない。


それでも。

でも。


抱き締めずにはいられなかった。


神々の王(かれ)の逆鱗に触れようとも。

その怒りが正当であり、たとえこの身を(いかずち)で亡ぼされようとも。


彼女の名を、この可愛い女性(ひと)の。


名を呼ばずにはいられなかった。





びっくりしたわ。一体何?今の光は―――!!……ロス。」 



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