星矢(Maine novel)
□Stage METIS 1
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「さあ、帰りましょう。
貴方が本来、あるべき場所へ。」
女性の腕が再度首に回された。
先程よりも強く、まるで求愛のように抱き締められる。
「私の…あるべき場所?」
女性は何も言わない。
代わりに頬を摺合せ、その白い手で、慈しむように後頭部を愛でてくれる。
心地良いその感覚に、酔いしれそうになる。
「けれど、私には導きが降りてこなかった…。」
自分の唇が、消え入りそうな声を紡ぐ。
勿論、納得をしている。
13年も経ってしまった。
地上と冥界、それぞれに過ごした年数を対比しても、大差ない程の時が経過している。
「いいえ、女神は貴方の甦りを待ち望んでいる。
時間なんて関係ない。ただ、怖くて貴方を呼べないだけ。」
「怖くて?」
「そう、自分のために一人散ってしまった貴方に、どう詫びてよいのか。
貴方の先にあったはずの未来を…、自分に係らなければ幸福であったであろう人生を壊してしまった事実に、悔いて悩んで…泣いているの。」
「けれどそれは…っ」
「ええ、そうね。仕方のない事。
でも察してあげて?あの子はまだ、13歳の女の子なのよ?」
女性は女神を“あの子”と呼ぶ。
そう口にした女性の表情は、胸苦しく込み上げる切なさと、喜びを揺蕩わせた愛しい者を想う笑顔だった。
「行きましょう。
大丈夫。私がいるから。…安心して。」
女性の四肢が体に絡みつく。
まるでこの体を確認するかのように。
その気持ちに絆されたのか、自分の腕も女性の背に触れる。
そっと抱き合った。
「でも…。」
「でも?」
「私は怖い。」
「怖い?」
「地上に戻った先の、愛している者たちが。
私を反逆者と信じ、遠退かせてきた者たちが。」
「…彼らの愛を信じられない?」
女性は腕の力を緩め、顔を覘き込む。
幼い子を案ずるように、柔和に、穏やかに。
「そうじゃない。
ただ、私にその愛を受けるだけの資格があるのか、受けただけの愛を返すことが出来るのか。
……それが不安なのだ。」
「……。」
心の内を吐き出した。
女性は微動だにせずに聞いていた。
視線が交わると、ふっと、頬を綻ばせる。