星矢(Maine novel)

□Stage METIS 1
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『Stage METIS 1:再会』





―――お久しぶりですね。


紡いだ言葉は、そんなありふれた挨拶だった。


巨大なる王。

敬愛し、崇拝すべき同族の長。


唯一無二の――――――私の義父。



(こうべ)が勝手に垂れた。

もう随分と永くお会いしていなかったのに、体が覚えている。



…いつかきっと、お会いする時が来るだろうと思っていました。


とても怖かったはずなのに、いざこうしてお会いすると、心の長閑けさに驚かされる。


そして無性に懐かしい。


この方を恨んだわけでも、忌み嫌ったわけでもない。

憶を手繰れば、幸を分かちあった時分もあったと、胸が熱くなる。


でもそうなるのはきっと、私の身勝手。

今、私に向けられるのは、凄まじい憤懣と怨嗟。

姪御(わたし)を慈しみ、優しかった叔父はもういない。




まさか、こんなに早くお目にかかろうとは。


できれば会いたくないと思っていた。

このまま永遠に。

私たちに許された無限の中、永遠に、二度と会わずにいられたならばと。


切に、願っていた。


……逃げる隙も与えては下さらないのですね。


けれど無駄ね。

やはり逃げられなかった。

逃げ切れる筈がなかった。


私を憎んでいらっしゃるのでしょう?


私さえいなければ、統馭は永劫であったでしょう。

最高の王だったわ。賢君であったと、心の底から叫んでもいい。

黄金の時代は伊達ではない。

治世は本当に豊かで幸福だったのよ。


幸福が―――――当たり前の時代だった。



御身もご存じでしょう?

時代は王と共に変化する。



そして時代は必ず終焉を迎える。



黄金は黄金のままではいられなくなり、当然であった幸は静かに崩壊していく。

裏切り者が言うのもおかしな話だけれど、その差は歴然で、黄金の世を知る私は絶句した。

人と触れ合わない世界のなんて物悲しいこと。


都合がいい?

ええ、本当ね。




“予言”がございましたわ。



“予言”



古の天空と大地が紡いだ呪いの言葉。


負の連鎖を生んだ大いなる元凶。



御身の時代はいずれ、滅ぼされる運命だったのです。


予言は覆せない。

起きぬ起こさぬと誓いながらも、私たちの想いは到底及ばず、いつか必ず予言は達成される。


この方も予言に踊らされた被害者の一人。


万事は“予言”によって執り行われ、何人たりともそれに逆らうのは不可能なのです。


そう、誰も逆らうことはできない。

時代の王であろうと、古き時代を築きし巨星であろうとも。

誰であろうと、絶対に。

説かれた予言は実行される。


だから、私は。



私は。



私を迎えにいらしたのですか?



この方が私の前に現れる。

予測できた事象の目的はそれしかない。


お断わり申し上げます。私は御身ともに参りません。


共には行かない。

行って、辿り着く先は分かっている。

全知(わたし)に何を望み、何を得ようとしているのはいるのか分かっている。



“予言は覆せない”



それを知る御身の願いはとても残忍で、残酷だわ。


御身の願いが達成されれば、時代が変わると知っていて。

なんて無情。

黄金の世の賢君の、なんという身侭。



私はいかない。


行くべきではない。





行ってはいけない。






再会 〜終〜


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