星矢(Maine novel)
□First Ignition
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「あのなぁ、ユイ。貴様の恩師がどれだけ美しかろうと、自分の憧れと俺の妻への需要を一緒にするな。
お前の“ちょうぜつびじょ”と俺の“超絶美女”では、恐らく月とスッポン程の差がある。」
「………さおり、きれい?」
「ん?女神はお美しい、当たり前の事を聞くな。」
「なら、美子せんせいもきれい。」
「はぁ?!!」
「さおりの5ねんご、美子せんせい。」
「なっ、ななな…!」
女児を抱く腕に力が籠る。
このまま羽交い絞めにしてやりたい衝動に苛まれ、俺は奥歯を破壊寸前まで噛みこんでそれを堪える。
空前絶後、僅有絶無たる我らが女神の美貌が、そんじゃそこらのちょっと綺麗かもしれない東洋人と同じである筈がない!
しかも、五年後だと?!
大人である分、その美子先生とやらの方が、洗練度が上だと言いたいのか?!
「くっ…、こ、このクソガキ、女神への冒涜は死に値する。その細い首根っこをこの手で」
「ユイちゃん!」
「美子せんせい!!」
「!!」
俺は上半身に軽い打撃を覚えた。
女児の手が、胴体が、足が、全身が俺を撥ね退けて、地面へと飛び降りる。
「なっ!」
完全に油断していた俺は、獲物を逃した喪失感に襲われる。
仕留め損ねた獲物を目で追うと、流麗な漆黒の鬣が飛び込んだ。
「わぁい!美子せんせい!美子せんせい!」
「ユイちゃん!無事ですか?よくお顔をみせて…!」
「うん、だいじょうぶ!ユイ、げんき!!」
「………あぁ、ユイちゃん、良かった…!」
女児は一人の女に駆け寄っていた。
髪の長い女だ。
東洋人らしい、見事な黒い髪だ。
女は腰を床まで落として、女児の顔を覗き込んでいた。
女児の頭を瑞々しい白い手で包み込んでいる。
食い入るように女児を見つめ、女児の健全を認識したところで、幼い肢体をギュッと抱き締めた。
「うぅ、いたいよ。美子せんせいぃ。」
「我慢なさい。ユイちゃんがいなくなって、私がどれだけ心を痛めたと思っているのです。」