Side Story

□過去の拍手たち
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『5番目の誓い』



今日も私の家のドアをノックする音がした。


…最近、本当に多いわ。

私の平穏はあの方との出会いによって、無いものとされてしまったみたいね。

良いけどね。

し〜んとしているより、賑やかな方が。



「はーい。今開けますよ。」


………。

扉の先には、やっぱりだけと、意外な人。


「忙しいところ、すまない。
今――いいだろうか?」


この方は私ととっても近しい方。

何が近しいかっていうと…そうね“質”かしら。


この方はあの戦いの後、私の両親の統べる階層を継承されたわ。

この方が今の統治者。

私の両親は会長さん、もしくは相談役ってところかしら。

だから、この方は私にとっても近くて、実のところ、傍にいると心地が良かったりするの。


それにしても、どうしたのかしら?



「どうぞ、上がって下さい。
あ、でもごめんなさい。このところ来客が多くて…ネクタルを切らしているの。」

「構う必要はない。
私は茶を飲みに来たわけではないのだ。
―――と。」



私が室内へ促すと、この方は入室する前に辺りをキョロキョロと見渡した。



「どうかして?」

「いや、貴女の邸宅に上り込むとなると…どこからともなく雷が落ちてくるのではないかと思ってな。」

「………。」

「末弟は嫉妬深い。
貴女も苦労する。」



もうあの方のお話なら、耳にタコだわ。


「ふ、そんな顔をするな。
案じずとも良い。もう言わぬ。」


う゛っ…顔に出てたかしら。



「って言うか、お兄さんと同じこと言うのね。
やっぱり兄弟だわ。」

「同じこと?
あ奴が来たのか?」


あ奴って…仮にも実兄でしょうに。



「ええ、少し前に。
顔は全然似てないのにね。」

「フン。似ていてたまるものか。
あんな陰湿な男に。」

「陰湿…。」

「姉に似ていると言われたほうだ、幾らもマシだ。」



彼はそう言いながら、私が案内した椅子に腰を下ろした。


ちょっと前から思っていたけど…あの三兄弟の中で――。

ううん、広く言えば6姉弟の中で、この方が一番幼いのかもしれない。

あの方は一番下の弟さんでいらっしゃるけど、背負った運命の悪戯か、担った責務の影響か、少しだけ大人びたところがあるから。




「それって、2番目のお姉さまの事?」


擽るようにそう問うと、彼はみるみる内に顔を赤くした。

あら、プレイボーイなのにね。

結構シャイ。



「わ、私と姉の事をどこで聞いたのだ?
まさか、姉から直接―――。」

「そうよ。
…って、言いたいところだけど、違うわね。
でも、“恋はしている”って言っていたし。私のポディション的に色々な小話が耳に入ってくるから、それでかな。」



私の返答を聞いて安心したのか、彼は胸を撫で下ろした。


…?

別に姉弟の恋愛なんて、珍しい事じゃないのに、何をそんなに安心する事があるのかしら?

そりゃ、この方とお姉さまだと、超ビッグカップルだけれど。




「他の誰に知れても…。」


私の疑問を察知したのか、彼はか細く話始めた。



「他の誰に知られても、貴女には知られては困る。
いいやっ、知られても良い。
だが―――誤解されては頗る参るのだ。」

「何故?」

「貴女には…その。」

「?」



彼はそこまで言うと、キュッと口を閉ざした。

お姉さまとの事を指摘されて時よりも、うんと赤く、烈火のように全身を燃え上がらせているわ。


「貴女には…その、い、妹、がいる…で、あろ、う?」


何この、動揺しまくった可愛い人。



「え?えぇ。まぁ…。
姉でも妹でも…でも、そうね。妹ならば、すんごい大人数いるわ。」

「そ、そ、その中の一人に…恋をした。」

「!!!」



ウソ…っ!

ビックバンクラスのカミングアウト。


「協力をしてほしい。」


キューピッドになれって言うの?

協力…はしたいけど、でも。



「そう…なの?
でも、私たちは総勢3000人も姉妹がいて…。
恥かしい事だけど、私は上の方の子だから、妹たちの事も全員把握できていないわ。」

「貴女もよく知っている女性だ。歳もそこまで離れてはいない。
―――懐いていると言っていい。」



え?


よく知っている。

懐いている。

私の、妹。

!!



「えぇ?!
もしかしてア――――ングゥ!」


パッと閃いた1人の妹の名に、驚いて声を上げると、彼が私に飛びついてきた。


「名は言わずともよい。
照れるであろうっ。」


ムグっと唇を手の平で抑えられる。

次の瞬間―――。



ズバァァァン!!


彼に雷が落ちた。



………。

どこから見てるのよ。


「ちょっと…大丈夫?」


彼は見事に黒焦げ。



「……貴女は愛されているな。」

「…それはどうか分らないけど、今度きつく言っておくわ。」



アイオロスの時と言い、この方の時と言い…ホント、嫉妬深いのをどうにかしてほしいわ。



「待っていて。今、復活剤を調合するから。」


彼を再度椅子に座らせ、戸棚に近寄る。


もぅ…如何にこの方でも、あの方の雷を食らったら一溜まりも無いんだから。

信じられないっ。本当に今度怒ってやるわ。




「彼女に…。」

「え?」

「彼女に好かれる為には…何をしたら良いであろうか?」


そう語る彼の瞳は真剣そのもの。

愛って…凄いわね。



「姉の立場で言わせ貰うと…。
浮気を頻繁にする男性に、嫁がせたくないの。」

「! 分っている!!
だから貴女に誤解をしてほしくないのだ!
彼女が一番敬愛し、寄り添う貴女だから…っ!!」



確かにね。妹は私にじゃれついている。

先の大戦だって「お姉様がこちらに付くのであれば、私も従いますわ。」と言って、水軍を率いて頼もしく戦ってくれた。


幼い頃は気性が激しくて“荒れくれ者”とか“唸る少女”とか色々言われたけど。

今じゃすっかり落ち着いて、しっとり美女に成長したわ。

そのせいか、意もそぐわない男性から声を掛けられる!って困っていたけど…。


この方もその一人なのね。



「妹を好き?」

「誰よりも。」

「その想いを何よりも尊重すると、誓える?」

「誓おう。」

「サラッと言うのね。」

「それ程本気なのだ。」



………本気、ね。

あぁ、耳が痛いわ。

男の人って、直ぐに本気を振りかざして、女がどれだけ困惑するかなんて、思いもしないのだわ。







「――――――イルカよ。」

「?」

「イルカをプレゼントすれば、何かのきっかけになると思うわ。」

「そう…か。」



彼の表情がゆっくりと明るくなる。

ガタン、と勢いよく立ち上ると、瞳を煌つかせた。



「そうか、感謝する!
――あ、これでは良くないな…素直に―――。

ありがとう。」

「あ、ちょ、待って!まだ怪我が…っ!!」



私の制止も聞かず、彼は外へ飛び出して行った。

私の手の内には、調合済みの復活剤。

あと一振りで完成だったのに。


………。

……。

ふふ。

良いわね。素敵ね。



ねぇ?私の可愛い妹。

彼、貴女の事が好きなんですって。


誓いの言葉も躊躇無いくらい、大好きみたいよ。



幸せになってね。


いつまでも、私を追いかけていては駄目よ。







〜5番目の誓い〜

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